記憶 散る美
風が吹く。カサカサと、色づいた葉が地面を転がる。
通学路の途中にある小さな寺。その参道は、紅や黄に染まった落ち葉に埋もれていた。
「ほら、ここ。私、好きなんだよね」
そう言って、澪は両手を広げるようにして一歩、落ち葉の絨毯に踏み出した。
ふわりと舞い上がる落葉。細いスカートのすそが揺れる。
「前にも来たよな。去年の今ごろも」
透がそう言うと、澪は立ち止まってふり返る。
「そうだっけ? ふふ、覚えててくれたんだ」
透は、少しむず痒そうに頷いた。
澪はそれ以上何も言わず、木の根元にしゃがみ込むと、色とりどりの葉を一枚ずつ手に取りながらつぶやく。
「綺麗なものってさ、どうしてこう、散る瞬間が一番綺麗なんだろうね」
「桜とかも?」
「そうそう。でも紅葉のほうが好き。桜はわーって咲いて、わーって終わるじゃん? 紅葉はもっと静か。じわじわ色づいて、ある日ふと気づいたら、全部変わってる。なんか、そういうののほうが、切なくて、心にじんわりくるというか、いい」
透は答えなかった。
ただ、彼女がそうやって地面に広がる葉をじっと見つめている横顔が、なぜかやけに印象的だった。
「……こういうとこに、忘れられない気持ちとかが、残ってるといいな」
「どういう意味?」
「んー。言葉にしなかった気持ちとかさ。ちゃんと伝えられなかったもの。落ち葉みたいに、どこかにそっと残ってて、風が吹いたらふっと出てくるの」
そう言って、澪は風に吹かれて転がる一枚の葉を追うように目を細めた。
木々の間を吹き抜ける風の音と、二人の足元を転がる秋の色だけが、世界を満たしていた。
なんとも感覚的な表現ですね。




