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プロローグ
緒ノ浦では、今日も坂道が潮騒を反射する。
午前八時、石畳の階段を踏み締める音が、まだ冷えた空気へと吸い込まれる。人通りはまちまち。観光地らしさは、休日の賑わいの記憶にだけ残っている。
坂見透は、響く音に耳を澄ませながら、毎朝の通学路を登っている。いつもなら、隣に彼女がいた。隣で呑気に、鼻歌交じりに風を浴びていたのだろう。
けれども今は、風もなければ彼女もいない。
彼女、尾白澪は失踪した。誰にも何も告げず、突然の出来事だった。彼女の部屋へただ一つ残された"影"は、嗤うように揺れていた——




