第三節 人見知り 2話目
――エリオット達と出会ってから数日経ったある日のこと。この日は呪文学との合同授業となり、三年生の生徒を相手に、防衛術の実戦を交えた決闘訓練が行われることになった。
元々裏で行っていた二年生相手の防衛術の授業は中止となり、代わりに三年生同士の決闘を見学するという形で、二年生三年生を含めた大勢が、学校が認めた決闘場に集まっている。
「それでは今より、私とバトラー先生とで実際に決闘を行うことにする」
「あははは……お手柔らかに」
うーん、授業に対する姿勢が真面目すぎるのかあるいは俺が気に入らないのか、目が本気を訴えていて苦笑いせざるをえない。
「バトラー先生がんばれー!」
「モーガン先生なんてぶっ飛ばしちゃえばいいのに」
余計な野次はやめろ。相手が余計に本気になってしまう。
「……随分と、生徒から好かれているようですな」
「ははは……お褒めの言葉をいただき光栄です」
しかしここで負ける訳にもいかない。腐っても魔法省出身、無言詠唱は禁止されているから種明かしはされるだろうが、ここは勝つしかない。
「決闘の前には必ず杖を見せるようにして目の前に立てる。これは相手にこの杖だけを使って戦うという、正々堂々とした戦いと、己が潔白を誓う意味を表す」
気を引き締めて杖を構え、そしてそのまま一歩、二歩、三歩と下がって距離を取る。
「そうして再び相手を見据える。ここからが決闘の始まりだ。使って良いのは相手の武装を解除するディサーメントと防衛術に関する魔法のみ。それ以上の許可はない」
……ん? どうやら実践と言いつつ説明だけで終わる雰囲気なのか?
そう思っていたその瞬間だった――
「では始めよう。武装解除ッ!!」
「っ!? 凪がれよ!」
とっさに受け流し呪文を唱え、武装解除の光を受け流す。光はそのまま私の背後にある壁にぶつかって、大きな亀裂を生み出している。
しかしまさか本気で撃ってくるとは……って、そういえば実際に決闘をするって最初に言っていたっけか。
「ほう、素晴らしい先生だ。以前勤めていた教師は防衛術を専門にしていた割に、私の武装解除を受けて吹き飛んでしまったからな」
……もしかして起こした事故で休職した理由って、この男が前任の教師を吹き飛ばしたことを指していたりして。
「では続けようか。武装解除!!」
「拒絶せよ!」
「何っ!?」
先程よりも強い力のこもった武装解除魔法だが、今度は反らす必要も無い。自分自身に拒絶の魔法をかけ、一定の魔法までは強制的に無効化する球状の膜を張り巡らせたのだから。
「……おやおや、バトラー先生。リパルサーは三年生で習得できる呪文では無い筈だが――」
「すいませんモーガン先生。防衛術に関する魔法なら何でも使っていいとおっしゃっていたので、ついムキになってしまいました」
笑顔でおどけた応対してみせるが、明らかに相手は不機嫌になっている。だが防衛術を任されている身として、ここで負ける訳にはいかない。
「これでディサーメントしか使うことを許可されていない決闘では、勝敗をつけることができません。ここで仮に私がモーガン先生にディサーメントを撃ったとしても、当然ながらモーガン先生も同じく防衛術を心得ていますので、決着をつけることはできないでしょう」
「……そのようですな、バトラー先生」
一応は相手も立てておきつつ、この場は引き分けという形に持ち込む。それに対してモーガン先生の方もそれを認めたのか、それ以上は何も言うことなく生徒の方へと指示を出し始める。
「それでは三年生は各自二人組を組んで、闘技場中央に一組ずつ来るように。違反した呪文を唱えたものには二発の魔法の拳が飛んでくる覚悟をするように」
「二年生は三年生の決闘を見て、もし自分だったらどうするのかと、実戦に向けて考えてみようか。来年は君達も授業を受けるのだからね」
「えぇっ!? け、けけけっ、決闘するの……来年!?」
……リリーの場合、決闘の日は自主的に欠席をしかねないだろうな。