幕間
なんか続き見つかったのでこっそり幕間だけ追加&シリーズという形で続編出します(´・ω・`)。
――魔法省内某所にて。
「……それで貴様はあの男を完全に囲い込むつもりか」
「そうなるな」
客室の中でも特に特権階級――三賢人のような客人を招き入れる際に使われる、魔法省内でも所在を知る者は一人握りしかいない応接の間。一つの円卓の周りに置かれた七つの椅子の一つに腰を降ろし、三賢人ロナルド・アーウィングは一人の女性と密会を行っていた。
「我等が予言の成就を目の前にして、気でも狂ったか」
「そんなつもりは一切無い。わしはただ予言を少しズラすだけ。“今”を護るより“未来”に託しただけじゃ」
「馬鹿げている。“今”を捨てた“未来”など、存在できる筈がない」
絹でできた真っ白のローブに映える、滅紫色の長い髪。瓶底の眼鏡の奥に潜む瞳は、当の本人は普通のつもりでも、目が合う者にとってはハヤブサに睨まれるような鋭い視線を向けてしまう。
「そう怖いことを言わないでよブラックちゃん。相変わらずおっかないんだから」
「ちゃん付けは止めろと言っている筈だ、ボケ老人」
三賢人が一人、ブラック・ハードネス。かつてはロナルド・アーウィングらと共に魔法界の発展に貢献した大魔法使いと呼ばれ畏怖される彼女が、同じ三賢人からの渾名に目をつり上がらせている。
「そりゃ不老不死薬を常用するくらい若作りに気を遣ってるんじゃから、そのように扱ってやった方が嬉しいじゃろうて」
「別に好きで常用している訳ではないことぐらい分かっているだろうが。私か貴様、どちらかが常に全盛期を保っておかねばならぬ状況だというのにふざけおって」
そうしてブラックが円卓の上に叩きつけたのは、一枚の新聞の切り抜き。
「このことは知っているだろう。シャックルズ最下層から、脱獄者が出たことを」
「勿論予知しておったとも」
「ではそれが誰なのかも知っているのだな」
次にブラックが円卓の上にだしたのは、若い男の顔が念写された羊皮紙。
「あれ程厳しく警備しておくよう魔法省にも伝えていたというのに、一番面倒な奴が出てきてしまった」
「占星術から外したツケが早速回ってきたとでも言いたいのか?」
「そうとしか言えんだろう!」
飄々とした態度を続けるロナルドに痺れを切らしたのか、ブラックは円卓に手を叩きつけながらその場に立ち上がる。
「分かっているのか!? こいつは必ず貴様の元へ、貴様の学校に復讐に来るぞ!」
「それこそまさに、ハエがハエ取り草で休むようなもの。わしにとっては非常に都合の良いことじゃ」
ロナルドはケラケラと笑って一蹴するが、ブラックの額には青筋が立つばかり。
「……よほど貴様はお気に入りになったようだな。あの男が」
「当然必然、やってくるなり学校に巣喰うウジ虫をあぶり出してくれたからのう」
「本人が意図しているかどうかは知らないが、あの才能はグリフィスの正義勘が可愛く思えてくる程のものだぞ」
「だからこそ、次世代を護る為に学校に置いておくのが条理。既に彼はもう、その才能を発揮しようとしておる」
乱暴に椅子に座り直すと、ブラックは卓上に置いた二枚の紙を睨みつけるだけで焼き尽くしていく。
「魔法界で初めて防衛術というものを生み出した開祖、マーロン・バートンに匹敵する才能を秘めた男をしがない魔法学校の臨時講師で雇うなど、ウィズバーンがこの場にいたら大爆笑だろうな」
「しがないとはなんじゃ。今の魔法省には結構な数の卒業生がいるというのに」
「フッ――」
次の瞬間――決裂を意味するかのように円卓は賽の目状に裁断され、その場に崩れ落ちていく。
「――だから今の魔法省は、揃いも揃って無能ばかりなのだな」
「その無能を優先するのが、お前さんの当初の予言じゃなかったか?」
一触即発。この場に他に誰かいたとすれば、誰しもが魔法省から飛び出して逃げていただろう。
しかし実際はロナルドとブラックの一対一。その内睨み合いに飽きたのか、ブラックは鼻で笑って席を立つ。
「……ふん。“今”が無くては“未来”は無いぞ」
「“未来”が無い“今“にしがみついても、何の意味も持たんわい」
その場に捨て台詞を吐きながら、ブラックは自身の影に沈んで消えていった。
といった感じで不穏な空気を出しつつ次のシリーズです。下のURLもしくはタイトルの上のシリーズからどうぞ(´・ω・`)。
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