第四節 疑いの目 2話目
「――いかがされたかな先生。このような深夜の廊下をうろついていて」
「すいませんモーガン先生、授業準備で凝り固まった頭を冷やそうと思いまして」
昼間から堂々と調べ事が出来る時間も余裕もない私にとって、深夜の時間は唯一残された自由時間。しかしこの日の晩は私の調べが甘かったのか、巡回をしていたモーガン先生に見つかってしまった。
「なるほど、防衛術は遅れを急いで取り戻さなければなりませんからなあ」
「ええ、そうなんですよ」
杖の先を突きつけられての尋問に心音が高鳴るが、魔法省時代に培ったできる限りの営業スマイルでもってモーガン先生に応対する。
こっちはただでさえブラウンの身辺調査で手いっぱいだというのに、この人にまで目をつけられてはたまったものじゃない。
「それにしても不思議なものですなあ。先生の前任の方も、こうしてよく深夜に徘徊していた。彼の場合、特に理由は話してくれなかったが」
まずい、何か疑われたか……?
「気をつけたまえよ先生。深夜に間違った部屋に入ってしまおうものなら、校長の呪いで晒し者になりますからなあ」
「ええ……重々心得ています」
「それならば、問題ないだろうが」
一応は、疑いが晴れたということでいいのだろうか。そう思って立ち去ろうとしたその時だった。
「……ああ、そういえばもう一つ。面白い話を聞かせましょう」
「はい?」
「この学校に住み着いている幽霊のお話、先生もお聞きになられたことでしょう」
その話は知っている。夜間に出歩いた生徒が気絶したという話も含めて。
「生徒の不安を煽ることからくれぐれも他言してはならないのだが……実は気絶した生徒は皆揃って、女子生徒だったという話だ」
「っ!? それはどういうことです!?」
「夜の学校で声を荒げるとよく響くぞ、バトラー先生」
とっさに口を塞いでしまったが、モーガン先生の情報は今の私にとっては非常に興味深いものに間違いない。
「……それって、どういう意味です?」
「どういう意味も何も、言葉通り受け取って貰って構わない。そして校長が仰っていたのは、あくまで害の無い幽霊なら祓う必要も無かろうというひと言だけだ。先生は男性だから大丈夫だとは思うが、くれぐれも、気をつけたまえ」
「……ご忠告、ありがとうございます」
この日聞くことができたモーガン先生の情報は、今後の私の調査に大いに役に立つことになるだろう。




