悪役令嬢は恋をする
「……あ。覚めた……って、え?涙?もしかして私、寝ながら泣いてた?」
「あれ、ローズ。起きたんだ……って大丈夫?涙出てるよ?」
私は夢から覚めた。真夜中だから暗くて何も見えないけど、少し頬に暖かい感覚がして、今私が涙を流していることに気づく。そして、急にリリーから声をかけられる。
「リリーも途中で起きたの?って……リリーの方こそどうしたの?そんなに泣き腫らして」
「あー……ちょっとさ、バルコニー行こっか。ここだとマイやイリアが起きちゃうかもしれないから」
「うん、わかった。丁度私も風に当たりたいと思ってたんだよね……まぁさっき当たったばっかなんだけど」
私とリリーは寝ているイリアとマイを起こさないようにゆっくりと静かに立ち上がり、バルコニーまで歩いていく。……にしても、なんでリリーも泣いてるんだろう。まさか、リリーも悪夢見たとか?
「……で、なんで泣いてるのかだったよね。えっと……私から話した方がいいかな」
「それはリリーに任せるよ。リリーが言うのしんどかったら私から言うし」
「そっか。じゃあ、私から話すよ。……あのね、夢を見たんだ。明晰夢?って類のもの」
それからリリーは自分が見た夢について話し始めた。リリーの遠い友達が、何度も、何度も、何度も、リリーの前で繰り返し死ぬ夢を見たこと。そして最後に包丁を自分に刺して自殺して、目が覚めた事を。
話してる途中、やっぱり所々リリーは苦しそうだった。でもまぁそうだろう。私も繰り返し私の目の前で紗蘭が死ぬ夢を見たら百パーセント苦しい。だって、ただ一回私の前で死ぬ夢を見ただけでこんなにも苦しいんだから。
「……リリー、大丈夫?」
「大丈夫……とは言い難いかな。まだちょっと苦しいし、怖い」
「そっか……教えてくれてありがとう、リリー。怖かったよね、大事な人が何回も何回も自分の目の前で消えるなんてさ」
「そう言ってくれてありがとう。嬉しい……よ」
体が勝手に動いて私はリリーを抱きしめていた。凄い不思議だ。……リリーと紗蘭が重なって見えた。リリーを急に抱きしめたくなった。リリーが苦しい思いをするのはとっても嫌だ。そんな気持ちが次々と溢れ出てくる。
「怖いっちゃ怖いけど……でも、夢なんだからさ。なーんて、リリーと同じで悪夢を見たから泣いてる私が言えるような事ではないんだけどね。……もしかしたら、リリーはこの言葉が嫌いかもしれない。けど、私が言いたいから言わせて。……大丈夫だよ。私はずっとリリーのそばにいるからね。一度たりとも離れないから」
……今度は、頭の中につらつらと優しい言葉が思い浮かんできて、尚且つ口もすぐに動いていた。まるで、私が私じゃないみたいだ。大丈夫かな、私変な事言ってないかな
「全然嫌いじゃないよ。むしろ……大好き。ありがとう、ローズ。っていうか……ローズも悪夢を見たんだね」
「うん。えっとそれじゃあ……私も話すね。夢のこと」
それから私もリリーに自分の見た夢を話した。紗蘭の事は同じく遠い友達と伏せて、気づいたら知らない学校にいて、何故か紗蘭がすぐそばにいたこと。教室に入ろうとしたら、夕方の屋上に飛ばされて、紗蘭の飛び降り自殺を見た事。
「ごめんね、リリーの方がずっとずっと苦しいのに」
「何も謝ることなんてないよ、ローズ。だって、ローズも苦しい思いをしたんでしょ?なら、その苦しさに優劣をつける必要なんてないと思うの」
リリーと話していると、不思議と涙が出てくる。……リリーの言葉が温かいから?それとも、まるでリリーが紗蘭のようだから?わからない。……そして、リリーも優しく私を抱きしめる。……体温なのかな。とても、あったかい。
「よく頑張ったね、ローズ。私が言える事じゃないけど……話してくれてありがとう。さっき、ローズはずっと私のそばにいるよって言ってたよね。あれ、本気にしちゃった。だから……私も、私のそばから離してあげないからね」
なんて言えばいいのかわかんない。感情が物凄いぐっちゃぐちゃだ。リリーにそう言って貰えて嬉しい気持ち、小悪魔なリリーを可愛いと思う気持ち、リリーの言葉が心に染みて泣きそうな気持ち。
「この後どうする?ローズ。寝る?」
「うん、そうしよっかな。でも……ちょっと怖いかも」
「じゃあローズ、一緒に寝ようよ。二人でぎゅってしながら」
「え、いいの?私そこそこ寝相悪いよ?」
「私はきっとローズとなら、不安もなくなりそうな気がするからそれでいいの。あと、言ったでしょ?私のそばから離してあげないって。さ、行くよローズ」
「……うん、わかった!ありがとう、リリー。私も、リリーとなら安心して眠れる気がするよ!」
凄いな、リリーは。少し話しただけで私の複雑な気持ちが全部消えちゃった。けど、そのかわりに。
……リリーを好きって気持ちが、大きくなっちゃった。




