主人公の悪夢
「……おーい」
……声がする。沢山聞き馴染んだ、私が沢山尊敬していた人の声。
「あれ、寝てるのかな……じゃあ、ちょっとだけいたずらしちゃお」
……これは、なんだろう。私の過去?それとも、夢?
「えへへ~……ほっぺつんつんっ。可愛いねぇ、紗蘭は」
「ん……先輩……?」
「うわぁ、起きちゃった!?」
頬に指の感覚が伝い、私は目を開ける。するとそこには、驚いてる顔をした茨先輩がいた。じゃあこれは……夢か。私の意識も体の感覚もくっきりとしている。つまり、明晰夢ってやつだろう。そう、先輩は死んだのだから。
「私、寝ちゃってました?」
「うん、気持ちよさそうにすやすや~って。紗蘭、最近は随分とお疲れだったもんね。ダメだよ?こまめにゆっくり休まないと」
「あはは……すいません。」
少し当たりを見渡すと、ピンクのカーテンやローズ様のタペストリーが目に入った。……じゃあここは、先輩の部屋なのか。
「そういえばそうだ。確か紗蘭っていちご好きだったよね?」
「あ、はい。いちごは大好きです!」
「紗蘭も来るしって思ってね、いちごのケーキを焼いてたの!今持ってくるから、ちょっと待っててね!」
「はい、わかりました!ありがとうございます!」
と、先輩はリビングまで急いで取りに行く。そして、途中でドンッという大きな音がした。……もしかして、先輩が階段で転んだんじゃ!?
「大丈夫ですか!?先……ぱ……い……?」
「……」
急いで私も階段まで行く。そして、そこで見たものは……
「……え?先輩、先輩?」
……階段についた血と、頭から血が溢れている先輩の姿だった。……いや、大丈夫。これは夢だ。これは夢だ。
「……」
夢だからなのか、もう既に先輩の目に光はなくなっていた。……つまり、先輩は死んだ。私の前で、先輩が……
「せん……ぱい」
夢だとわかっていても、涙が出てくる。だって……二回目だ。二回も大切で大好きな人の死を受け入れないといけないなんて、到底耐えれるわけが無い。そして、涙が私の手に零れた瞬間。私の視界が白くなった。
そして……
「らん……さらん……おーい、紗蘭~?」
「……え?先輩……?」
また、先輩が私を呼ぶ声がして目を覚ます。すると、先輩がまた目の前にいた。……いや、夢だからこんな事が起きても不思議じゃないのか。にしても……まずいな。なんか不思議と泣いてしまいそうになる。
「どうしたの?ぼーっとして。ほら、折角のピクニックなんだから楽しもうよ!」
「ピクニック……?」
先輩に言われて、今私はリュックサックを背負っていることに気づく。……一体なんなんだろう、この夢は。
「あ、紗蘭!見えてきたよ!」
「あ、本当ですね!」
そんなことを考えながら歩いていると、美しい緑と綺麗な池がある公園に着いた。……綺麗だな
「あ、お腹すいちゃった。丁度いい頃合いだし、そろそろお昼にしよっか」
「はい、わかりました!」
……なんでだろう。段々と反応するのが苦しくなってきてる気がする……いや、深く考え過ぎてるだけだろう。折角のピクニック?なんだから楽しまないと。
「じゃじゃーん!見て紗蘭!この卵焼き、紗蘭が好きって言ってくれたからいっぱい作ってきちゃった!」
「卵焼きもそうですけど……どれも美味しそうで凄いです!」
「ふふーん、ずっと今日は楽しみだったからね。沢山練習してきたんだ!」
先輩のお弁当箱には、箱いっぱいに詰められた卵焼きにミートボール、ウインナーなどが沢山あった。……先輩って本当に料理上手なんだよね。私、先輩の料理ほんとに大好きだもん
「紗蘭にも沢山食べてもらいたくてさ、色々いっぱい作ってきたんだ!さ、二人で食べよ!」
「先輩、ありがとうございます!」
「あ、そうだ。紗蘭、あーん」
「せ、先輩?」
「ふふ、ごめんごめん。ちょっと紗蘭が可愛くてさ、ついつい」
「……な、なら!」
先輩が私にあーんをしてくる。いや、急にそんな事されると恥ずかしいというかなんというか……。けど……意外と先輩ってこういう時やり返されたら弱いんだよね。じゃあ……食べちゃお。
「え?あ、たべるんだね。……えっと……その、どう?美味しい?」
「はい!とっても美味しいです!」
「な、なら良かったよ……」
ほら、たじたじになってる。先輩のこういうところ、凄い可愛いんだよなぁ。いっその事私も先輩にあーんしてみようかな?……なんて思った次の瞬間。
「……あれ?夕方?いつの間に……」
「あれ、もうこんな時間なんだ!紗蘭、それじゃあ帰ろっか」
「え?あ、はい」
空が橙に染まり、カラスの声が辺りに響いていた。……そっか、これは夢だから次々と変わってくんだ。
そして、先輩に呼ばれて私もゆっくりと歩き始める。
「あ、もうちょっとで信号変わっちゃう!急がないと!」
「あっちょっと!先輩、待ってくださいよ!」
この時、私はもう何となく察していた。この後すぐ、何が起きるのかを。そして、その予感らしきものは的中した。……そう、先輩が、車に跳ねられた。
「……また、ですか」
そして。また、先輩が死んだ。そう、私は変な所で察しが良かったりするので何となくわかった。これは、繰り返し繰り返し私の前で先輩が死ぬ夢だ。……なんていう地獄なんだろう。
……それから、更に三回くらい先輩が死ぬのを見た。
一回目は、カフェに行った。そして強盗が現れて先輩を銃殺。二回目は、ただ普通に街中で歩いて買い物をしているだけだった。が、通り魔に遭遇してしまい、先輩を刺殺。三回目は、海。小さな子供が溺れてるのを先輩が助ける、が子供の代わりに先輩が溺れて溺死。……もう、やだ。夢だってわかってる。でも。何度も、何度も、胸を裂かれるような苦しみが毎回消えてくれない。
「……ここは……私の家?今いるのはキッチンで……料理途中?」
……そうか、わかった。この夢を終わらせるためには、私が死ねばいいのか。大丈夫、自殺はこれで二回目だ。だから、そんな怖くはない。
「……これで、この地獄ともばいばい」
私は、丁度手に握っている包丁を思いっきり自分の胸目掛けて刺した。……流石に痛いな。けど、これで。




