卒業式
三月の頭。この世界では桜の開花が早く、窓を開ければもう風に吹かれて桜が部屋に入ってくる。今日は、いよいよ卒業式。いよいよ学校を出る時が来た。……まぁまだ何するかとかは未定なんだけど。
「スピーチ、大丈夫かな……」
「ローズならきっと大丈夫でしょ。……あ、そうだ。ローズ、キスしてあげよっか?不安ほぐれるかもよ?」
「じゃあ……してもらっても、いい?」
「じゃあ、目瞑ってね。こうやって勢い任せにしない時はやっぱ顔見られるの恥ずかしいから」
「うん、わかった」
「……今日も沢山大好き」
「私だって。昨日よりずっとずっと大好き」
私は生徒会長……及び卒業生代表なので、まぁ例の如くスピーチをすることになっている。確かリリーも副会長としてスピーチをするはず。
それと、リリーとの関係はどんどん進展してってる。沢山大好きって言い合ったりもしたし、あれからも沢山デートした。それから……おはようとおやすみのキスをするようになった。
「ありがと。頑張れる気になったよ」
「なら良かった。こちらこそありがとね、私もちょっと不安だったから」
「どういたしまして。それじゃ、行こっか」
「うん、そうだね」
「おはようございます、お二人とも」
「今日もいい朝ですわね!!」
「イリア、マイ、おはよ」
家を出て少し歩いていると、イリアとマイと会った。
うん、やっぱりこの四人が一番しっくりくるかも。リリーと二人だけの場合はほら……ずっといちゃいちゃして終わっちゃうから新鮮だし、一人で行く場合は一瞬だし。
「いよいよ卒業式ですわね。……こうしてみんなで登校できるのも、最後になりますわ」
「少し寂しい感じはあるけど……でも、別にこれからもいっぱい遊んだりするよね」
「だね。一生みんなでワイワイしてそう」
「私も、ジークさん達も含めて変わらずみんなで色々楽しい事をやっている気がします」
「ま、レイスはあと一年かかるけどね」
「んー……じゃあ、遊びに行こうよ。武術大会とか、文化祭とか」
「それいいですわね!」
四人で話していたらまたあっという間に学校に着き、それぞれクラスで用意をして体育館へと移動する。
私とリリーはスピーチがあるので、イリアとマイとは別れた。
「皆様、お集まりのようですね。それでは、卒業生の方を執り行っていきたいと思います」
やがて時間になり、ジークの声が響き渡る。そういえば……この学校、不思議なことに行事は教師中心ではなく生徒中心で行うみたいだ。まぁこのゲーム自体主軸は私達な訳だし、教師が超少ないのもあるのかも。
「続いて、生徒代表二名による挨拶です。生徒会長ローズ・コフィール様。副会長リリー・クレスアドル様。ご登壇下さい」
ジークに呼ばれ、私とリリーは舞台へと上がる。
【ローズ、大丈夫?】
【うん、大丈夫】
【なら良かったよ。それじゃあ、まずは私から行ってくるね】
「ご紹介に預かりました、生徒会副会長を務めておりますリリー・クレスアドルです。私から話したい事は二つ。まずひとつ、在校生に向けて、です」
と、それからリリーは話し始めた。短すぎず、長すぎず。時間としてもちょうどいいし、さすがリリー。
「これを持ちまして、私からの挨拶とさせていただきます。ありがとうございました」
で。問題は私だ。上手く言えるかな……。いや、緊張とかはしてないんだけど……元々私スピーチ自体苦手だったしなぁ。
「ん、んん……。積もっていた雪や冬の寒さから一変して、窓を開ければ暖かな日差しに涼しい風が入り込み、春桜が風に吹かれて空を旅する季節となりました」
やっぱこういう入りはアニメとかでよく見る卒業式のスピーチをうろ覚えで再現するに限るよね。何かと頭に残りがちだし。あとはまぁ……私の言葉で、伝えたいことを伝えればいっか。でも、伝えたいこと……
うん。成長した自分にしよう。そしたら、昔を思い出しながら話せる。
「この学校で過ごした三年間で得た喜びや悲しみ、幸せや苦しみ、躊躇いや決意と覚悟。その全てが、今の私を大きく変えてくれました。皆さんにも、大きく形を変える出会いがあることを心より願っています。生徒会長、ローズ・コフィール」
……まぁ、ざっとこんな感じかな。
私が挨拶し終えたあとは、普通に在校生徒代表の挨拶だったり、校長の挨拶だったりがあってあっという間に卒業生は終わった。それじゃあ次は……卒業パーティーだ。