お茶会
「うん、ちょうどいい日差しね」
中庭にちょうどいい場所がある、とお母様が言っていたので中庭まで移動をする。……そういえば何気に一回も中庭には行ったことないんだよね。いや……そういえばかなり最初の方にあったっけな。確かイリアを助けに行く時。
「折角だし、もうちょっとだけ彩りましょうか」
お母様が手を合わせて祈りのポーズをとる。すると、何も無かった中庭や、用意された椅子と机に花が咲く。
「これは、お母様の……魔法?」
「えぇ。初めて見せたわね。私の魔法は戦闘向きでは無いのだけれど……その変わり、こうやって美術的な面で輝けるのよ」
「とても美しいですね」
そういえばそうだ、本来の展開だと魔法なんて使うことなくローズ様とラーベルによって殺されるから全くわかんなかったんだ。花の魔法……一番ゲームとしてはあってそうな魔法なんだけど??
「……紅茶よ。クッキーも焼いてあるわ」
「ほんと!?ありがとうお母様!!」
「ありがとうございます、奥様。……それにしてもお嬢様は、本当にお菓子に目がないですね」
「そうね。確かに実力も、心も、体も成長してはいるけれど……やはりその根底は子供のままね」
「お嬢様って、凄いですよね。とても優しくて、とても強いのに……時々、守りたくなるような可愛さもありますもん」
「それ、わかるわ。武術大会だとか、文化祭だとか、そういう大きなイベントを見た後に家でローズを見るとね。まぁ、その可愛さもローズの魅力の一つなのだろうけど」
「急に何?アベルに、お母様まで……」
「そうやって褒められ慣れていないところとかもとても可愛らしいですよ。あの時、遊園地で私を救ってくれた時とは大違いです」
……また随分と前の話を。リリーほどではないんだけど、やっぱ褒められると照れちゃうんだよね。だから可愛いって言われるんだろうけど。
「遊園地……ってもう七年とかそれくらい前じゃなかったっけ」
「そうですね。でも忘れたりはしませんよ、絶対に。あの日のおかげで今の私があるのですから」
「ほらもう早速私が置いてけぼりになってるじゃない。……そういえば、アベルの話って言うのはあまり聞いてなかったわね。もし良かったらその話、聞かせてくれないかしら?」
「うん、いいよ。いいよね?アベル」
「はい。たまには昔話というのもいいでしょう。それにきっと、またあの時の気持ちを抱けるかもしれないので」
ということで、遊園地デートの話をお母様にした。
懐かしいことばかりだった。お化け屋敷に……初めて見たアベルの笑顔。観覧車でアベルに伝えた言葉、それから『忌み子』を捨てたマイ。……あぁ、本当に懐かしいなぁ。
「そんなことがあったのね。どうりでアベルがローズをとてつもなく慕っているわけだわ」
「そういえば奥様、ひとつ尋ねたかったのですが」
「ええ、いいわよ。なんでも聞いてちょうだい?」
「私が来る前のお嬢様って、一体どんな感じだったのでしょう」
「昔のローズか……なんというか、今とは真反対な感じだったのよ」
まぁそりゃそうだ。今まで触れては来なかったけどちっちゃい頃からローズ様は悪役としての片鱗をかつてないほどに見せているからね
「今とは違う感じ?」
「なんて言えばいいのかしらね。優しい……には優しいはずなのだけれど、かなり我儘な子だったわ」
「今のお嬢様からは想像できませんね」
「私もかなり驚いたわ。まるで別人になったみたいに急に大人しくなるんだもの」
まぁ……うん。実際別人な訳ですし。
「でも、嬉しいわ。こんなにも優しくて強い子に育ってくれたんだもの。聞いたわよ?学校の方で、リリーと併せて二大聖女って呼ばれているんでしょう?」
「それは……うん、まぁ」
「成績も優秀で実力も国内最強と言っても過言ではない。……私の一生の誇りだわ。ローズ」
これも……ある種親孝行、ではあるのかな?
正直な話バッドエンド回避することが何より優先事項だったから割と自分優先で動いてたんだけどね。まぁ、もう終わったイベントなんだけど。
「二人から色々と話を聞けて良かったわ。本当はもうちょっと聞きたかったのだけれど……私はまた執務に戻らないといけないから、お開きにしましょう。……また、色々と話しましょう」
「うん、いつでも」
……とまぁ、そのまま部屋に戻るんだけど。
「……リリー?」
「おかえり、ローズ。楽しかった?お茶会は」
「どうせ全部聞いてたんでしょ?」
「まぁね」
「えっと……拗ねてる?」
「拗ねてないよ。ただ、行くならせめて一言言って欲しかったなーって」
「次からはちゃんと言うようにするよ」
「うん、ありがとう」