卒業式までの色々 一
いつものように新年を迎え、初詣も済ませていつものように過ごしていた二月のある日。私は、アベルと一緒にお母様に呼ばれていた。
「失礼します、お母様」
「奥様、失礼します」
「二人とも、急に呼び出してごめんなさいね。二人を呼んだのは、それぞれ個人で要件があるからなんだけど……別に誰かに聞かれたらまずいって訳でもないから、二人一緒に来てもらった方が早いと思ったの」
「個人で要件ですか……」
「ええ。じゃあまず最初ローズからね」
なんだろう、なんかちょっと怖いような?私何かしちゃったっけ……
「ローズ、この前当主を継いで欲しいって頼んだわよね?」
「はい、そうですね。当分は大丈夫って話でしたが」
「あれの件なんだけど、二十歳になったらでどうかしら?」
「二十歳、ですか」
「ええ。あなた、もうそろそろ卒業するじゃない。卒業後の進路は考えてたりするのかしら?」
「今のところは、特に……」
「そんな事だろうと思って、よ。とはいっても私が勝手に決定するのもおかしい話じゃない?だから、二十歳になるまで待っててあげるわ。今年、もし何かやりたいことが見つかったらこの件は無しでいいわ。でももし何も見つからないようであれば、当主を継いでもらう。……どう?悪い話ではないでしょう?」
リリーと一緒にいれさえすればそれでいいと思ってたから、将来なんて全く考えてなかった。……でも確かに二十歳っていうのも何かの節目だし。いいかもしれない。それに、お母様は大変優しいので強制もしている訳では無い。じゃあ……その提案を無に返すのはとんだ親不孝だろう。
「その提案、受けさせていただきます」
「そう言ってくれて嬉しいわ。ひとまずこの一年、あなたの過ごしたいように過ごしなさい」
「はい、わかりました」
「……それで、次にアベルね」
「私に要件とは一体……?」
「アキからの申し出があったのよ。『私は不在の日が多いですし、何より彼女の実力はもう私を超えています。ですから決めました。メイド長の座は、アベルに』と。ってことでアベル。あなたは明日から、代理ではなく本当のメイド長よ」
そういえばすっかり忘れてたけどアキ様がメイド長って言うのはずっと変わってなかったね。確かに、アベルもメイド長"代理"だし。
「承知しました。メイド長として、これからはより一層精進致します」
「えぇ、期待しているわ。話は終わりよ。ふむ、そうね……折角三人揃ったのだから、お茶会でもしないかしら?」
「お茶会、ですか?」
話が終わり、そのままお母様からのお茶会の提案に私もアベルもぽかーんとする。……え、お茶会?お母様って今までそういうことするような人だったっけ。私の理解が浅いだけ?
「ええ。そういえば三人でしっかりと話したことはなかったでしょう?ここからは当主ではなく一母親として話すのだけれど。アベルってほら、ローズととても仲が良いじゃない?」
「まぁ、そう……ですね」
「ほんっとうに今更な話だけれど。別に無理に敬語を使わなくてもいいのよ、ローズ。あなたの話したいように話してちょうだい。……で、実は私、羨ましかったのよ。アベルと話す機会なんてあんまりなかったから」
「私は全然構いません。お茶会なんて、とても久しぶりですから」
「じゃあ、まぁ。……私もいいよ。一回ちゃんと娘として沢山お母様と話してみたかったし」
という感じで、おそらく初めての屋敷でのお茶会が開かれたのだった。