悪役令嬢と美人メイド 二
同じく私もリリーの頬にキスをする。瞬間、頭にガゴンっという衝撃が走って、視界が戻される。……覚め、ちゃっ、た……
「ローズ、おはよ」
「あ、リリー。おは……」
ま、待って!!リリーの顔が見れない!!あの夢がチラついちゃってる!!だ、大丈夫かな……誤解されてないかな……?
「ロー……お嬢様、大丈夫ですか?」
「え?あ……おはようアベル」
「おはようございます、お嬢様。ところで……何故ベッドに顔を埋めているのでしょう」
「あー……えへへ、ちょっとまだ眠たくてさ」
「お嬢様にしては珍しい。もしかして、まだ顔を洗っていないのですか?」
「うん、寝起きだし」
「でしたら、私と一緒に行きましょう。丁度私も顔を洗いに行くところでしたので。……リリー。シーツ、お願いしますね」
「はい、お任せ下さい」
急にリリーの口調が変わったと思って後ろを向いたら、アベルがいた。……変なとこ見られた。ちょっと、せっかくアベルが連れ出してくれたんだから相談してみようかな。
「あのね、アベル……」
「はい、どうなさいましたか?」
「今朝から、ずっとリリーの顔が見れないの」
「と、いいますと?」
アベルにリリーと結婚した夢を見た事と、それに引っ張られてリリーの顔を見ると勝手に目を逸らしてしまうことを話した。
「……なるほど。そして今更ではありますが、本当にお嬢様はリリー様の事が好きなのですね。……一人間として」
「うん、大好き。……変、じゃない?」
前々からわかりきってはいたけどやっぱりアベルにはすぐにバレていた。……ちょっとだけ、怖い。前世のあれがあるから、もしかしたら軽蔑されるんじゃないかって思っちゃってる。
「変、ですか……。それは、女性が女性を好きになることについて、でしょうか」
「えと……うん」
「もちろん、変なわけないじゃないですか。別に、誰かに迷惑をかけてるわけでもありませんし、お嬢様が恋をしたのがたまたま女性だっただけ。それだけの話です。っていうかそもそもの話、魅力的な人に惹かれるのは当たり前のことです。それに性別がどうかなんて、いりますか?」
「そっ、か……。ありがと」
……あったかい。前世では感じたこと無かった暖かさだ。自分の"恋心"というものが理解してもらえるなんて、思ってなかったから。
「いえいえ。それにですね、お嬢様」
「うん」
「もしここが同性愛が気味悪がられる世界なのであれば、とっくのとうに私も軽蔑されていますし、もし私が気味が悪いと言うようなのであればそれはただの自虐ですしね」
「えっと……え?」
「相変わらず、お嬢様は鈍いですね。要するに、です。私もずっとあなたの事を……メイドと主関係なくアベル・スターリアとして、ローズ・コフィール様を一人間として恋い慕っている、ということです。この気持ちは嘘ではありませんからね。ですから、少しリリー様を妬ましくも思っております」
えっと……え??待って?アベルって私が好きなの??たしかにちょっとそういう素振りはあったけどさぁ。
「それで、リリー様の件ですが……たまにはそういう日があってもいいのではないでしょうか」
「そうなの、かな……」
「お二人は脳内通信なるものが可能だと聞きます。ですので、コミュニケーションの方に関しても問題は無いので」
「そっか。……ありがと、アベル」
「いえ、お役に立てたのなら何よりです」