武術大会 その後
……なんだろ、この暖かい感覚は。誰かに、抱きしめられてる?きっと、そうだ。じゃなきゃ、こんなにも暖かいなんて思うはずないもん。
「ん……ここは」
「やっと起きたか。……全く、馬鹿者が。無茶をしすぎじゃ。それを治す妾の身にもなってくれ」
「あー……ごめん、アリア。それとありがと。あ、そういえば……私、どれくらい寝てた?」
「二日じゃ。リリーもまだ寝ておる」
目を覚ましたら、私はアリアの白い尻尾に包まれていた。ここは、保健室かな?誰にもみられない時間を見計らって来てくれたんだ。そういえば、アリアの尻尾もとてつもなくあったかかったっけな。……ていうか、二日も寝てたんだ。あ、ちょっと頭痛いかも。
「ちょっと寝過ぎちゃったな。いいよ、リリーは私がなんとかするから」
「はなからそのつもりだ。一度やるだけでもかなりの魔力を消費してしまうのでな。では、私はこれで失礼するぞ」
私の回復を確認して、アリアは妖狐の姿からいつものメイドへと姿を変えて、そして出ていった。……うん、よし。またいつも通りに魔法は使えるね。えっと、リリーは……ここかな??
「……すぅ、すぅ」
「ふふ、気持ちよさそうに寝てる。可愛いな」
「まくら……」
「えっちょっと!?」
リリーの近くに座ってリリーの寝顔を見ていたら、枕と勘違いされて引っ張られてしまった。……あぁそっか、リリーの場合は普通に魔力切れで寝てるだけなのか。……いやちょっと待って!?あの、誰もいない保健室にベッドで二人きりって……
「……ドキドキ、しちゃうよね?」
「うひゃあ!?」
「ふふーん、実はもう起きてました~」
「い、いつから!?」
まるで私の考えてることを読み取ったかのように、リリーからそんな言葉が発せられる。……起きてることにもびっくりしたし、思考を読まれてることにもびっくりした……
「んーと、昨日?」
「えぇ……」
「ローズの寝顔が可愛すぎてつい、ね。起こすのもったいないなーって。それに、起こしても起きなかったし?」
「起こそうとはしてくれたんだ」
「……で、だよ。負けちゃった」
「うん、勝った」
「だからこれからは一緒だね。お嬢様」
「なんかリリーにお嬢様って言われるの違和感すごいんだけど」
「まぁまぁ、メイドとして働く以上はね。もうお母様達には話してあるし大丈夫だから……今夜から、行ってもいい?」
「うん、全然いいよ」
そういえば今って何時?と思い時計を見る。……五時だった。全然早朝じゃん。ちょっと外行きたいな。折角こんな早くに起きたんだから、外の空気を吸いたい。
「……リリー、屋上行かない?外の空気、吸いたくなっちゃった」
「奇遇だね、私も行きたかったんだ」
リリーと保健室を出て、屋上へと向かっていく。
……あと、早朝の校舎というのは新鮮なもので、誰もおらず、明かりも消えていてうっすらと顔を出した朝日が照らしてくれる。ドラマとかアニメとかで見た好きなワンシーンだ。テンション上がる~!!
「ん~!!やっぱり朝の空気って美味しいね」
「だね~!!こんな早い時間の空気を吸ったのは久しぶりだよ」
「んー……そうだな、吸って終わりってのもあれだしね。ローズ、ちょっと何か話そっか」
「うん、いいよ。リリー、何か話したいことあるの?」
「ローズはさ、好きな人っている?」
「好きな人……リリー」
「え……」
「マイも、イリアも、ジーク達も。みんなみんな、大好き」
「……そっか、ローズらしい答えだね。私もみんなが大好き」
急にどうしたんだろ?なんかリリーがいつにもなく照れたような表情してる。うん、可愛い。なんてことを思っていると。
「あれ、こんなところにいたんですね。リリー様、ローズ様、もうお体の方は大丈夫なのですか?」
「保健室に向かったらいなかったのでびっくりしましたわ!!」
イリアとマイも屋上に入ってきた。え?なんで二人が??この時間だとまだ学校は閉まってるはずなのに。
「あれ?まだ学校ってしまってない?」
「アリア様が言っていたのです。『閉まってると言っても警備がザルだな。これならよじ登っても問題は無いだろう』と」
「ですので無理やり来ましたわ!!私もマイも飛行魔法は使えますし!!」
「あはは……アリアの入れ知恵か」
「まぁアリアらしいね」
「そうだ、忘れてました。ノープ先生からお二人に渡すように言われてたんでした」
マイは、空から金のトロフィーと銀のトロフィーを取り出す。……いつの間に収納魔法も覚えたんだ。
「ローズ、リリー。優勝、準優勝、おめでとうございますわ!!」
「わー、ありがとう!!帰ったらすぐ飾るね!」
「それにしてもさすがお二人ですね。最後の武術大会で、また伝説を上書きするなんて」
「本当に見てて白熱した試合でしたわ!!」
「二人の試合も凄かったよ。ちょっと成長しすぎてびっくりしちゃった」
「イリアとはやれてないけど。マイ、私の動きを読めたのは凄かったよ」
「ありがとうございます、リリー様!!」
……こんな感じに朝日が照らす屋上で語り合い、私の最後の武術大会は幕を閉じた。