負けられない戦い 二
炎の波に向けてそう告げる。すると、波はガラスのように砕け散って消えた。……炎ってそんなふうに崩れるの??
「それは……呪言??」
「惜しいね、これは強制魔法。闇魔法の中でも禁呪に分類されるものなんだってさ」
そう、私の新しく得た技一つ目。この二ヶ月、私だって沢山用意はした。普通に魔法の練度を高めたり、超適応と超適合を深めるために沢山図書館で本を読み漁ったり、魔物狩りをしたり旅をしたりした。おかげさまで、数百近く使えるものが増えた。
強制魔法。その名の通り、口にしたことが強制的に起こる魔法で、上限はなく「死ね」等の強めな言葉でも強制的に発動してしまうので、闇魔法の中でも上位の"禁呪"に分類されている。
この魔法に頼りっぱなしなのもあれだし、別に私は誰に死んで欲しい訳でもないので、私は二つほど自分に縛りをかけている。一つ目が、使用回数は一時間に三回のみ。そして二つ目は、命及び生に関わるものは無効とする。というもの。……で、あと二回。
「禁呪……それって大丈夫?」
「リリー忘れた?私の超適応には、誰よりも使いこなすことができるって言うのも含まれてるんだよ?当然ある程度は自制してるよ」
「そっか。ならいいけど……いや、だいぶめんどくさいな!!」
「でもリリー、まだまだ行けるでしょ!!」
「当たり前!!」
リリーも私もどんどん加速していき、わずか一秒で数十回、リリーとの激しい攻防が繰り返される。……うん、やっぱりこの感じだよ!!早くて、それでいて狙いも正確で……私が過去戦ってきた誰よりも強くて。そして、今まで戦ってきた誰よりも楽しい!!
「妖舞・炎打ち!!」
狐火の回転速度が増して、四方八方に炎が打ち出される。もちろん、観客席には結界を展開してあるので被害の心配はない。
「っと……上に飛んだのはラッキーだったかも。……はぁぁぁぁ!!!!」
「風圧か。でも……全然避けれる!!」
リリーは咄嗟に上へと飛び上がり、遥か上空から勢いよく踵落としをするけど、全然私よりも遠い場所に着地する。リリーの狙いは攻撃することではなく、風圧で炎を全て消すことだった。ついでに、余った風圧で私を攻撃してくる。
そしてこれも前々からずっとわけがわかんなかったんだけど、何故か私は風圧が見える。ので、避けることは容易い。ていうか私もコピーできるからね、風圧は。
「解刀緋桜・二ノ解……焔火」
「なるほど……最近アリアがいない日が増えてると思ったら、リリーに稽古つけてたんだね」
「ご名答。しかもまぁ有難いことに、刀身に魔力を込めてもらってね。おかげさまで炎魔法も操れるよと」
リリーが斬りかかってくる。私はそれを水の盾で防ぐのだが……不思議なことに、どこからともなく小さな火の塊がぽんぽんと音を立てて現れては、すぅっと緋桜の刀身に消えていく。そしてひとつ塊が消えただけでも、二倍近くまで火力や威力が増えていってる。
「よし、割れた」
「……止まれっ!」
「しまった、強制魔法を忘れてた!!」
五つくらい塊が消えた時、ついに水の盾が割れた。
そして刀が私に迫る……寸前、強制魔法を使いリリーの動きを止めた。危うく貰うところだった。とりあえず一発いれるか。
「はぁっ!!」
「うわっ!?」
リリーの背後を取り、背中に一発蹴りをいれる。しかもただの回し蹴りじゃなくて、足に炎を纏わせた蹴り。リリーは勢いよく吹き飛ばされ、ドゴォォォォンっと闘技場の壁にぶつかった。
「痛た……やってくれるじゃん、ローズ。でも、そうじゃないと楽しくない、よね!!」
「うん、そうだね。リリー、もっともっと楽しんでこうよ」
「持って二十分かな。……いいよ、私の全てで挑んであげる」
「リリーにはちょっと申し訳ないけど……私も、私の持てる全てで勝ってあげる」
「……それ、やっていいの?終わったら私も倒れてるだろうし当分動けないんじゃない?」
「こうでもしないとリリーの本気には見合わないでしょ」
リリーの魔力がどんどん減っていってるのがわかる。これは……なるほど。魔力を零に近くする代わりに、常時強化状態でいられるのか。リリー曰く持って二十分。耐え切れるかな。
少しリリーにはずるいと思うけど、それでも勝つためには仕方ないことだから。私は、ある能力を使用する。そして今、私の左目には……薔薇の模様が浮かび上がっている。