負けられない戦い
「……どうしたの、ローズ。緊張してる?」
「もちろんしてるに決まってるよ……逆にリリーは、緊張してないの?」
「してるよ?かなりしてる。ほら、手の震えだって止まらないでしょ?」
「あ、してるんだ。普通にいつも通りだったから、してないのかと思ったよ」
試合が始まるちょっと前。リリーと、学校の木陰で話していた。よくよく考えると今から本気でやりあう相手と楽しく話しながらご飯食べるのってちょっと変な気がするけど、それでもリリーが大好きだからいいや。
「ローズは緊張しすぎなんだよ。私が言えたことじゃないんだけど、ゆっくりリラックスしてこうよ」
「そう、だよね。せっかくリリーとの勝負なんだからちゃんと楽しまないとだよね」
「うんうん。私、全力で楽しむからさ。ローズも楽しも?二年前みたいに」
「……そうだね。ありがとリリー、ちょっと落ち着いたよ。……さ、めいっぱいやろう!!」
「うん、そうだね。あの時の借りを返させてもらうよ!」
そしてそれから一時間が過ぎ、午後一時。
『皆様お待たせいたしました!!ついに、ついに武術大会も決勝戦となりました!!それでは早速選手に登場していただきましょう!!』
……ふぅ。よし、これで、始まるんだ。リリーとの、全力の勝負が。絶対に、勝つ。勝って、いつまでもリリーに私のそばにいてもらうんだ。
『まずはこの方!!瞬きさえも命取りになるほどの超速度で次々と立ちはだかる選手を薙ぎ倒していく、その姿はまさに雷のよう。我が校の生徒会副会長!リリー・クレスアドル選手!!』
「二年間、だっけ。ずっと、ずーっと待ってたよ。絶対に負けないから」
『相対するはこの方!!魔法、体術、頭脳、どれをとっても何人たりともかなうものなし!一言で表すならまさに最強!!その性格から聖女とも呼ばれている、我が校が誇る生徒会長!!ローズ・コフィール選手!!』
「お互いに、超全力で、それこそ殺すつもりでいこう。……心中ゲーム、第二ラウンドだよ」
絶対に、負ける訳には行かない。例え私がボロボロになったとしても、もうこの後動けなくなったとしても、四肢がちぎれても。
きっと、私の愛情は異常だ。普通ならそこまでして一緒にいたいなんて思わないはずだろうけど、私はそう思えてしまうから。だから、例え好きな人でも、殺すつもりで勝ちに行く。
『それでは両者、位置について。用意……始めッ!!』
「はあぁっ!!」
「それは防げるっ!!」
合図が響いた瞬間。リリーの膝が、眼前まで迫ってくる。……うん、開幕から本気だ。けど、私からしたら全然避けれる。
「集え、狐火!!」
「それで、接近戦を封じこめたつもり?」
「それはあくまでもオマケだよ、目的はこれからのお膳立て!!」
少しリリーから距離を置き、狐火を周りに浮かばせて回転させる。リリーにも言ったように、これはあくまでもお膳立て。こうした方が、妖舞も多少打ちやすくなる。リリーは神秘の剣を取りだして、その力を解き放つ。……やっぱり、リリーもまだ隠しまくってるな。何となくでわかる。
「斬撃の雨!!」
リリーが神秘の剣を空に向けて振る。すると、空に魔法陣のようなものが浮かび上がり、無数の斬撃が降ってくる。
「懐かしいな、昔この技は全力でガード展開して防いでたっけ」
「それが今となっては簡単に避けれるんだもんね、びっくりだよ」
「私もびっくりだよ。妖舞・乱れ火!!」
負けじと対抗して、私も乱れ火で空から火の雨を振らせて斬撃の雨を相殺する。なんでだろうね、狐火を纏ってた方が全然威力は上なんだよね。
「一個、私の手札を見せてあげようかな」
「いいよ、じゃあ私も手札をひとつ見せてあげる」
リリーは神秘の剣をしまって緋桜を取り出した。……一体、何をするつもりなんだろう。
「解刀緋桜・一ノ解……炎魔!!」
「……いつの間に、炎魔法を」
リリーがまた先程と同じように緋桜で空を切る。そして、次の瞬間。緋桜の刀身が大きな火の波となり、私を飲み込もうと向かってきた。……リリーはいつの間に炎魔法を?……いや、違うな。これはアリアか。
じゃあ、私も一つ新しい力を披露するとしようか。
「消え去れ」