そして迎える
あの後、すぐにアリアは馴染んで、驚く程に仕事を完璧にこなしていた。まぁ二三回経験してただけの事はあるけど、私も正直驚いた。一つ一つの所作が素早く丁寧で、もう既に他のメイド達の憧れの的となっている。
そして、あれから二ヶ月ほど経過して、今は九月十一日。武術大会前夜だ。はぁ……緊張するな。負けたくないな。
「失礼します、お嬢様」
噂をすればなんとやら。アリアが来た。
「どうしたの?アリア」
「……よし。お前の事だからきっと緊張しているだろうと思ってな」
あれからアリアは私の部屋に来る時、周りに誰かいないか確認して崩した話し方になるからちょっと面白い。そういえば……この二ヶ月くらい、定期的にアリアがいなくなってたけどどこ行ってたんだろ。
「む……冷やかしに来たの?」
「違う違う。少し様子が気になっただけだ」
「はぁ。その予想、当たってるよ。結構というかかなり緊張してる」
「しなくてもいいと思うのだがな。何せお前はこの国の誰よりも強いのだからな」
「それは……そうなんだけど。そうじゃなくて、一番私が不安なのはリリーだよ」
「あぁ、リリーか。確かにリリーはお前にも匹敵しうるからな」
「だからすごい緊張してるって訳」
「まぁ大丈夫じゃないか?聞いたところによると二年前は勝ったらしいじゃないか」
「それは二年前の話でしょ。アリア達妖狐族からしたら短いと思うけど普通に長いからね、二年って。それに、私だってリリーだって覚醒してる」
現状だと、超適正が進化して二十倍になった事しか判明していない。それだけの可能性もあるけど、もしかしたらまだ何か隠してる可能性もある。だから、油断はできない。それに、前と違うのはリリーだけじゃない。イリアもマイもジークもラーベルも、みんなみんな成長してる。だからなるべく己の実力を過信しないようにしないと。
「だから、油断するわけにはいかない。慎重にいかないと」
「折角だ、私も見に行こう。観覧は自由なのであろう?」
「あー、うん。確か去年から自由になったはずだよ」
去年は生徒会試験で参加出来なかったけど、小耳には挟んだ。保護者や部外者の観覧が可能になった、と。
「存分に楽しませてもらうぞ、ローズ」
「……ありがと、覚悟決まった。うん、楽しめる試合にしてみせるから」
「それでは失礼する」
……アリアのおかげで多少は楽になった。さ、頑張るか。絶対に勝たないと。勝って、リリーとずっと一緒にいるんだ。
そして、翌日。下駄箱付近にある掲示板に武術大会のトーナメント表が貼られる。ラーベル達はいつも通り遅めに来るとの事なので、私達四人で早めに来て早速確認しに行っていた。
「私は……Bブロックですわ!」
「奇遇ですね、イリア様。私もBブロックです」
「あら、それは嬉しいですわね。二年前の借りを返す時が来ましたわ!!」
「また、負けませんから」
「私はCブロックだったよ。リリーは?」
「私はAだった!えっと相手は……ラーベルにジークか」
「さて、それじゃあ確認も済んだことですし、早速会場まで行きますわよ」
……こうして、私の最後の武術大会が始まった。