人型バグ
「……待って。いきなりボス部屋だよ」
「え?ほんとだ」
飛行魔法でゆっくりと降りていく私にリリーはそう話しかける。下を見ると確かにそこはボス部屋で、道中が一切ない。妲己も手強いって言ってたし……きっと取り巻きなんて必要ないくらいの魔物が現れるのだろう。あの実力を持つ妲己でも取り巻きはいた。一体だけだったけど。そんな取り巻きも必要ないボスなんて一体どれくらいの……
「ん?影が動いて……ローズ、来るよ!」
「わかった!」
今更だけどここは最下層のはずなのに、何故か月光が指している。そしてその光が指してることによって生じた影が動き出し、私達の前で渦を巻き始めた。
……何となく理解した。ここのボスが、誰なのかわかった。
私は影に語りかける。
「久しぶりだね。まさかここのボスだなんて思わなかったよ。……さぁ、今度こそ決着をつけようか……メサーク!!」
「お久しぶりですねぇ。まさか私がいない間に前代未聞の覚醒を果たしてしまうとは。流石は来訪者様。この世界のルールから外れているだけはあります」
やがて影は消えていき、白いピエロのような仮面をつけた黒髪の男がそこに立っていた。メサーク・シェロツ。去年から何かと私達に関与してくる私も、私よりも遅く死んだリリーでさえも何も分からない謎の存在。
「リリー、戦う前に少しだけ時間を貰えないかな」
「え?いいよ」
「メサーク。戦う前に色々聞きたいことがあるから答えて」
「あっさりと決着が着くのもつまらないですからね。いいでしょう、答えてあげます」
メサークのことを考えて度々思い浮かんできた疑問が幾つかある。それを片っ端から聞いていこう。
「一つ目。まず、君は何者?なんで私達の事を知ってるの?」
「まぁ正直に話しても良いでしょう。改めて、私の名はメサーク・シェロツ。あなた方によって生み出された、ただのゲームバグです。そして何故あなた方の前世を知っているか、という話ですが……親の名を知らぬ子が、世界のどこにいるでしょうか?」
「ゲーム、バグ?私達が親?ま、待って?どういうこと?」
ゲームバグ……どういうことだろう。それに、私達が生み出したって?リリー同様に、かなり頭の中がこんがらがってる。現状何も分からない。
「少々長話でも致しましょうか。まず基盤となる話なのですが、あなた達がこの世界へ来訪すること……つまり、転生すること。それ自体がもう既にこの『sunshine flowers』というゲームの中で起こったバグであり、あなた方は私と同類の人型バグという分類になります。そして、あなた方は特別な力があった」
「もしかして……シナリオを、変えれること?」
「そうです。正確に言うと、あなた方二人はバグの身でありながらNPCに干渉ができる。よって本来あるはずのシナリオを壊し、新たなシナリオを作って埋めていく。それを繰り返してたら当然本来のゲームシナリオというものは跡形もなく崩壊します」
「なんとなく、わかったよ。要するにメサークが産まれた理由っていうのはそのゲームシナリオの崩壊なんでしょ?」
『壊れたものを更に壊すということは創造の一種である』
これは死ぬ前、どこかで見た本に書いてあった滅茶苦茶な暴論。事実無根で現実味のない話だけど、私は何故か好きだった言葉。要はそういうことなのだろう。バグである私達が滅茶苦茶してシナリオを改変しまくる。すると、ゲームの許容できる範囲を超え、自然とまた大きなバグが生まれてしまう。おそらくそれが、その大きなバグが、メサークだったんだ。
「ご名答。理解が早くて助かります。それで次に、何故あなた達のことを知ってるのかという話ですが……これもまた簡単な話です。あなた方に比べると微々たるものですが、私もゲーム外にもゲームにも干渉することが出来る。ただそれだけの話です。先程も言った通り微々たるものなので、できて個人情報の閲覧までですが」
「えっと……待ってローズ。どういうこと?」
「メサークはゲーム外……まぁ要するに日本。にもゲームの中にも干渉する事が出来るって言ってたけど、恐らくこれは意思関係なく発動しているもので、もう既に産まれた時からメサークの頭の中には流れてたんだよ。自身が産まれた理由、それから私達の個人情報や転生していること、人型バグであることが」
「なるほど?……ってか、なんでローズはそんなわかるの?」
「ふと思い出した天才キャラの推理能力をコピーしてみた」
昔私が好きだった漫画に、とにかく頭が良くて推理や考察に長けた能力を持ってるキャラがいた。そしてメサークにゲーム外に干渉する力があるなら、きっと擬似的な親である私たちにもある訳で別アニメの能力とかもコピーできないか試してたら、できてしまった。
「一つだけですが、質問はまだおありで?」
「いや、いいよ。聞きたいことはもう聞き終わったから……始めようか」
「そうですね、始めましょうか。私とあなた達による、本気の戦いを」