ダンジョン攻略第四層 後
「まずは序の口じゃ。炎打ちを真似できるお主ならこれくらいは容易いものであろう?……妖舞・乱れ火!」
妲己は、指を下に向ける。すると、上から火の雨が降ってきた。言葉通り、細さも速さも何もかもが雨だ。
これが序の口か……流石は前世で逸話の大妖怪と呼ばれてるだけのことはある。リリーと共闘してだったら間違いなくやられていただろう。で、真似すればいいんだっけ。なら簡単な話!
「妖舞・乱れ火!!」
同じように私もひょいっと人差し指を下に向ける。すると同じように、火の雨が降り注いできた。まぁさすがにこれくらいなら全然余裕だね。いや、よくよく考えるとこれを余裕でコピーできる時点でおかしいんだけど。
「見事じゃ。かすった程度じゃが、妾に傷を入れるとはのう。誇ると良い。お主は妾が生きた数千年で一番の強者じゃ」
「お褒めに預かり光栄ですよーっと。で、次は?」
「まぁそう早まるでない。これは遊戯じゃ。多少は会話も交えてよかろう?……で、次じゃったな。次はそうじゃなぁ、武器でも試してみようかの」
妲己は今、完全に楽しんでるみたいだ。本当に私達を殺す気もなく、大怪我を負わせるつもりもなく。ただただ技を真似できる私を面白がっている。敵意も一切感じないしね。
「妾の命は絶対じゃ。逆らうものはみな許さぬ。さぁ、妾の元へ来るが良い。顕現せよ、緋桜!!」
妲己の手から炎が溢れ出し、紫色の鞘に身を包まれた刀が姿を現した。……え?刀?妲己が?あの妖狐が?
「なんじゃ?妾が刀を持つのはおかしい事か?」
「いや、別にそんなことは無いんだけど……その刀、どこで手に入れたの?」
「二百年ほど前かのう、妾が喰った男が愛用しておった刀じゃ。この紫に惹かれてしまってのう。以来妾はこの緋桜を愛用してきたわけじゃ。……それにしても、やはり詠唱が必要になってくるというのは不便じゃのう。こんなの話してる最中に攻撃されるに決まっておるだろうが」
前々から思ってたけどそうだよね、やっぱりこの詠唱いらないよね?いくら異世界とは言えども、この詠唱になんの意味やなんの効果があるのかは私もさっぱり分からないんだけど?
「あ、できた」
「ほう!緋桜の顕現を無詠唱でこなすか!ローズ、お主は一体どこまで面白いのじゃ!……折角だからのう。斬りかかって来るがよい。妾をもっと楽しませるのじゃ!」
手から炎が溢れ出し、黄色い鞘に入った刀が私の手元に現れる。まぁ、武器のコピーを無詠唱で行えること自体はシンとの戦いでわかってはいたんだけどね。
それよりも刀を得られた事が嬉しいかも。
妲己に言われるがまま、私は緋桜を鞘から抜く。うわー、刀身に桜の紋様が入ってる!かっこいい!今後愛用させてもらおうかな?
「じゃあ、遠慮なく行くよ。……はぁっ!」
「ローズ、刀を触るのは初めてか?」
「うん、初めて!ちゃんと刀を持ったことすらないし、見た事すらなかった!」
「その能力のおかげか……刀の扱い方がなっておる」
軽めだったとはいえ、私のスピードに対応されたことと一瞬で刀身を鞘から抜いたことは一旦スルーしとこう。 ていうか、気に入った人間に対してはいいやつなんだな妲己って。ちゃんと褒めてくれたりする。……いやまぁ、たくさん殺した大悪党ではあるんだけども。
「では、ひとつ技を見せようか。これを含めたあと二つ、それを真似出来ればお主達の勝ちじゃ。では、いくぞ」
妲己は私から距離を置いて、防御姿勢のような構えをとる。そして妲己の緋桜の刀身が、紫に光ってそこそこ強い魔力が発せられる。
「緋桜の刀身は魔法を元にして作られておる。故に、緋桜にもその魔法を活用したいくつかの技、解刀が存在するのじゃ。お主には、解刀の奥義を真似てもらおうか」
「いきなり奥義か……まぁ、死なないって言ってるし……念の為魔法無効はつけておいて、受ける用意はよし。さぁ、こい!」
「解刀緋桜……極の解・繚乱緋華」
まるで舞い散る桜のような、見惚れてしまうくらい美しく燃え盛る刃が私の目の前に迫る。威力は言うまでも無く強烈、それに加えてあれは魔法も何も無い天性の美しさ……いや、刀身から幻覚魔法が発せられているのか。さて、これの避け方は……まぁダミーかな!
「なるほど、一層の影騎士の能力で影の偽物を作ったか。……さぁ、今度はお主の番じゃ。真似してみせよ」
「でも多分できちゃうんだよね~。解刀緋桜極の解・繚乱……緋華!」
おそらくってかほぼ絶対、この能力に限界はないだろう。そもそもによくわかんない覚醒で得た能力だし、これはおそらくゲームにもない能力だから。要するに、これも真似できるってこと。
妲己と同じように構えを取る。刀身が黄色く光って、魔力がどんどんと増えていくのを手から感じる。刀って、凄いんだな。少し加減しつつ、妲己に迫る。そして、髪を切った。
「流石じゃな。……まぁ、全て予想内ではあったのだが。これが、最後じゃ。妾の奥義を見せてやろう。これを真似ることが出来たのなら、お主の勝ちじゃ」
緋桜を仕舞い妲己は言う。……妲己の奥義か。結構威力は高い方だよね。正直な話まぁ真似は出来ると思うんだけど、受けれるかな
「では、ゆくぞ。……妖舞奥義・百炎乱狐!!」
範囲はこのボス部屋全体か。物凄いスピードであちらこちらに狐火が現れては爆発してを繰り返している。なるほど、これは確かに奥義だ。一切避けようがない。し、かなり時間も長い。……ん?これ、乱れ火もセットできてる!なるほど、妖舞の集大成のようなものか!
「とまぁ、こんなもんじゃ。一度で莫大な魔力を要するからの、困ったことに魔法が終わったら魔力切れで体が動かせんほか、いっしゅうかんほど元の姿に戻れなくなってしまうのじゃ」
「魔力……ならまだ有り余ってるし、最悪回復もできるし。まぁなんとかなるでしょ。よし、じゃあ妲己にも炎の結界を張って……やろうか。妖舞奥義……百炎乱狐!!」
妲己がリリーに張った炎攻撃無効の結界を妲己に張る。さすがに今動けないって言ってたからね、殺しちゃうかもしれない。
そして行使直後、あちらこちらに黄色い炎が現れては大きな爆発を起こして、乱れ火も降り注いで。とそんなこんなで結局受けれたし真似もできた。
「あ、ちょっと使いすぎたかも。……かはっ」
魔力を使いすぎた影響で、私は血を吐く。やっぱりこれだけはどうにも出来そうにないか~。
「うむ……妾の完敗じゃ。楽しませてもらったぞ、ローズ」
「……ローズ!!」
リリーの結界が解かれ、こっちに走ってきた。
「ローズ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっと魔力使いすぎただけだよ」
「あぁ、そうじゃ。リリー、そなたは刀剣使い手だと聞く。じゃからそなたに緋桜を渡そう。使いこなして見せよ」
「え、いいの?……ありがとう」
「それからローズ。次の層を牛耳っておる者は手強いぞ。心して挑むが良い」
「ありがと、妲己」
妲己とそんなやり取りを済ませて、私達は最後、第五層へと降りたのだった。
「もはやお前に勝ち目などないわ。思う存分負けて因縁をはらすといい。なぁ、メサークや」