提案
私が帰ってきてはや一ヶ月が経った五月の終わり頃。いろいろあったけど、今では全部もう元通りになっている。そして、私は今何故か……お母様に呼び出されていた。
「お母様、失礼します」
二回ノックをして、執務室のドアを開ける。そういえばこんな感じで執務室に入るのは初めてだな……っていうかもしかして私何かしちゃった!?
「急に呼び出してごめんなさいね。でも、決してあなたが何かしたというわけではないからそこは安心していいわ」
「では、どうして急に?」
「私から一つ、提案……というか、頼み事があるのよ」
「頼み事、ですか?」
怒られる訳では無いのはわかったんだけど……何かちょーっと嫌な予感がするなぁ……
「ええ。単刀直入に言うけど、ローズにここの次期当主になって欲しいの」
「え、私が……ですか!?」
「まぁ急に言われても甚だ疑問よね。ちゃんと説明はするわ」
……こういう時の私の嫌な予感って言うのは当たるんだよなぁ。そうかぁ……私に次期当主になってもらいたいと来たか……
「まずローズ、あなたは卒業した後何するかとか、考えているの?」
「今のところは特に考えては……ないですね」
「あなたのことだからそうだろうと思ったわ。まず、それが一つ目の理由。で次に二つ目は、そもそもにあなたの方が私よりも向いていると思ったからよ」
「お母様よりも、私の方が?」
「ええ。あなたは私よりも理性的で、頭も良いし、優しいし、何より魔法の腕も群を抜いて優秀だからきっと、私よりも圧倒的に向いてると思うの。どう?引き受けてくれるかしら」
未来の事は一切考えてはいなかったな。リリーと居られることが幸せだったから。でもこのままずっと何もしないのもあれだし、折角お母様が私を推薦してくれてるから……頑張ろう。何代目か知らないけど、コフィール邸当主として。
「お母様。そのご提案、謹んでお受けいたします」
「と言っても、ローズが当主になるのはまだあと数年後の話よ。私もまだ全然ここを離れる気は無いし。でも、執務をたまーに手伝ってもらうことはあるかも」
「はい、わかりました」
「本当に急な提案でごめんなさいね。前々から考えてたのだけれど、言うタイミングが分からなくて。……話はそれだけよ。さ、それじゃあお昼の用意をしましょうか」
話が終わるとお母様は立ち上がり、キッチンへと向かっていった。……さて、私が次期当主かぁ。
いつ正式な当主になるのかわからないけど、いつでもいいようにお母様の所作とかリスペクトできるところはメモしておかないと。
「んー、そんな未来のことを考えててもあれだしなぁ。何か気分を紛らわせるもの……」
一個、思いついた。けど……ちょっとだけ恥ずかしい気持ちもある。こんな事が頭に出てくるあたり、本当に私ってリリーの事が好きなんだな。
「もし……二人きりでデートしよって行ったら、リリー、驚くかな」