また、いつも通りの。 後編
シンと戦って圧勝して、その後お昼を食べて。なんて事をしていたら、もう三時になっていた。……そろそろ帰らないとまずいなぁ。
「あら、もう三時。帰らないとですわ」
「……」
「大丈夫だよ、ローズ。私が付いてるって」
「沢山酷いことをしておいて言うのもなんだけど……とても楽しい一日だったわ。また、遊びに来てちょうだい。今後ともマイをよろしく頼むわね」
「今度はちゃんとおもてなししますね!」
そういえば、マイはレクファー邸に住むことにしたそうで、シャクヤは今日はその手続きを色々としていたみたいだった。
「うん、ありがとう!それじゃ、また明日ね!」
「はい、また明日!」
『また明日』。まさか、この言葉がここまで嬉しい言葉になるとは思っていなかった。本当に、もういつもの日々には戻れないと思っていたから。やっぱり、みんなはとても優しくて暖かいな。
そして私達はレクファー邸を後にして、イリアとも別れて、リリーと二人でコフィール邸へと向かっていた。
「お母様、どんな反応するかな……」
「怒るってのはまずないでしょ。それよりもはるかに心配の方が勝ってそうだし」
「まぁ……いざとなったらリリーに何とかしてもらうかな」
「うん、任せて」
「よし、見えてきた……ってうわ、見張りみたいなのがいる!」
リリーと話しながら歩いて、ようやくコフィール邸が見えてきた、のだが……門の前に、SPみたいな人が、ざっと数えて十人程度配備されている。そうだよね……かなり大事だもんなぁ。
「うーん、じゃあそうだなぁ……ローズ、時間を止めて直接ローズの部屋に行こう」
「うん、わかった」
とりあえず私はリリーを対象外として時間を止めて、浮遊魔法で部屋に入っていく。……よし、とりあえずは部屋に来ることは出来た。
「で、ここからどうしよう?」
「直接下に行っても婦人を困惑させちゃうだけだしね……とりあえず一回屋敷全体をみよっか。今は時間が止まってるから大丈夫なはず」
「極力触れないように意識しないと。敵意無しで触ったらその人の時間停止が解けちゃうからね」
「うん、わかってるよ」
私達はゆっくりと下に降りていく。そしてそこで、予想外な事が起こっていた。
「お……嬢、様……?」
「え、アベル……??」
「幻じゃ……ないですよね?お嬢様、なんですよね……?」
その予想外な出来事とはそう、アベルに時間停止が効いていなかったのだ。……いやいやいやいや!なんでアベルに効いてないの!?
「えーと……あはは~、うん。ただいま。……はぁ、しょうがないか。アベルに見つかっちゃったわけだし、時間停止も解くか」
「私、いたほうがいい?」
「ううん、あとは私が何とかするからもう大丈夫だよ。ありがと、リリー」
「りょーかい。じゃ、また明日ね~」
リリーが出ていったのを確認して、私は時間停止を解除する。さてさて、問題はここからだ。
「ロー……ズ?ローズなの?」
「はい、私です。ローズです。一週間も心配させてしまい申し訳ありません、お母様。この一週間の説明なら致します。ですので、場所を変えてもよろしいでしょうか?……アベルも一緒に」
「……わかったわ。アベル、執務室まで行きましょう」
すぐにお母様に見つかったけど、さすがお母様。メイド達には立ち入りを禁止されている執務室で話させてくれる。さて……どこからどこまで話せばいいのやら。いや、もう全部話そうか。沢山心配かけたんだから、お詫びになるかどうかは分からないけどちゃんと全部話そう。
「それで……改めて聞くわ。この一週間、どこにいて、何をしていたの?」
「はい、お話しましょう。……一週間ほど遡りまして、私が消える前。日に日に私の様子がおかしくなっていってたのはもうお気づきですよね」
「えぇ、そうね。だんだん食欲もなくなってきて……ちゃんと眠れてもいないみたいで。凄い心配していたわ」
とそれから、闇の魔力の事、私が誘拐されていたこと、シャクヤの事、私が覚醒した事についてお母様とアベルに説明した。もちろん、前世の話等は一切伏せて。
「そう……ローズ。ずっと、大変だったわね」
「すいません、もっとちゃんと私がお嬢様を見ておけば」
「謝る事じゃないよ、アベル。っていうか、私としてはアベルが巻き込まれなくてよかったよ」
「はぁ……本っ当に、良かったわぁ。……おかえりなさい、ローズ」
「ただいまです、お母様」
よし、これで何とかやり過ごせたかな?……ふぅ、これでやっと、本当にまたいつも通りの日々が過ごせるんだ。