母と子、先輩と後輩 三
コツ、コツ……と歩いてる音や、夜風の音が聞こえてくる。まだ、歩いてる最中なのかな?
「お母様、一体どちらに……」
「ここよ。……あなたは、懐かしいでしょ?」
「はい、懐かしいですね」
「昔の私は……というより、少し前までの私は、あなたの事をあまり知ろうとしてなかったもの。シンから聞いた時、ちょっとだけ驚いたわ。あなたが寝れない時、一人でここで涼んでいたなんて。……少し、嬉しかった」
「嬉しかった、ですか?」
「ええ。幼い時の私も、寝れない時はここに来て月を眺めていたもの。それが例え恨んでいた相手でも、同じ気持ちをわかってくれる人がいるのは嬉しいものなのよ」
「お母様……」
へぇ、マイとシャクヤも寝れない時はバルコニーに行ってたんだ。やっぱり寝れない時は夜風を浴びるのが一番だよね。
「……最初にあなたを呪われた子だって言ったのは、あなたの父、ランカ・サヴェリス伯爵だったわ」
「はい、お父様はいつも塵でも見てるかのような軽蔑の視線を私に向けてきたのを覚えてます。……それで屋敷を出て行ってしまったのも」
「そう。その通りよ。『こんな呪われた子の親だと知られたら地位が危ういかもしれない』『自分が軽蔑されるかもしれない』。そんな恐怖から、彼は屋敷を出て行ってしまったの。そして、当時の私は彼に酷く心酔していたわ」
なるほど、マイに対する軽蔑の初出は父親からだったんだ。……にしても、まぁ酷い親だこと。これはあくまで私の考えだけど、例えどんなに呪われていようとも、自分の地位を失ったとしても、それでも愛情を注ぎ続けるのが親じゃないの?
「彼が出て行った事がとてもショックで、その後はひたすらあなたの事を恨んでばかりだった。消えて欲しいとまで思ってた。それで、シンにもマイを沢山虐めるよう命令したの」
「ではお母様、シンと一緒に前の屋敷を出て行ったのは?」
「本能が告げていたのでしょうね。『きっと今の私はやり過ぎてしまう。だから距離を置いた方がいい』と」
……シャクヤの気持ち、わかなくもないな。例え話にはなるけど、もし私が絡んでた一人の事を紗蘭は嫌いで、そのせいで私の傍を離れていったなら、少なからず私はその子を恨むはずだ。
「だから、私はまたここに帰ってきたの。……結果として、日々日々恨みは募ってくばかりだったのだけれどね。闇の魔力の副作用の影響で」
「闇魔法の副作用……?」
「ええ。マイのように、うっすらとしか闇の魔力が流れていないなら話は別なのだけれど。基本、闇の魔力というのは副作用のようなものがあるの。『一度抱いた憎しみは、消えること無く増え続ける』っていう副作用がね」
初めて知った。そんな効果があったんだ……。つまり、シャクヤも元はいい人だったって事だよね。確かに私達を消して絶望させようとはしたものの、マイには一切危害は……いや、あったか。
「……でしたら、なぜ今お母様は平気なのでしょう」
「私は一度死んで、ローズが蘇生してくれたのよ。だから、その恨みもリセットされたの……ねぇ、マイ」
「はい、なんでしょうお母様」
「私、きっとあなたから恨まれてるわよね。あなたやローズを操って、あなたの大切な人をみんな殺そうとして、日常を壊そうとして……。いくら謝っても謝りきれないし、許して欲しいとも思わないわ。でも、これだけは言わせてちょうだい。……今まで沢山、ごめんなさい」