先輩と後輩 終わり
「…………え?う、うそ……な、なんで……?……え?せ、先輩が……?」
あの光、なんなの……?それに一体、この気持ちは?
なんで、紗蘭が?
「と、とりあえず……一回落ち着こう」
『……そうですか』
『近いうちにお葬式やるから、さ。紗蘭にも来て欲しいの。その方がきっと、峰華も喜んでくれるから』
『はい、わかりました。絶対行きます』
これは……私が死んだ後って事?だよね。お葬式の話とか、私が死んだとか見えるし……それに、紗蘭と話してるのは桃依お姉ちゃんだし。
「……先輩。本当、なんですね。本当に、先輩はいなくなって……もう、会えないんですね」
「……っ。せん、ぱい……」
あー、思い出した。かんっぜんに思い出したよ。私、シャクヤに狂わされてたんだ。あーあ。我ながら本っ当に馬鹿だよね。寝ぼけて酒飲んで死んで大切な後輩を泣かせるわ、狂わされて好きな人を殺そうとするわ……出来ることなら過去の自分をぶん殴ってやりたいくらい。
そして、また再び白い光が視界を包む。今度は……学校?えっと、剣道部かな?ここは……
「鈴乃。大丈夫か?」
「……あ、はい。大丈夫です」
「なら別にいい。極力無理はするな」
「……紗蘭、大丈夫?」
「うん、私は大丈夫だよ」
「ちょっとさ、お話したいことがあって。来てくれないかな」
「……うん、いいよ」
……嫌な予感がする。あの子、確か前に紗蘭の陰口を言ってた子だよね。その時は私が注意してたけど……そっか。もう私がいないから、思う存分に紗蘭をいじめれるんだ。
「えっと。それで、お話って?」
「お話はね……無いよ?」
「……え?」
「……だから、話すことなんてないって言ってんの。まったく。疑いもせずにのこのこと着いてきてくれてほんと助かったわ」
「痛っ……な、なんで叩くの?私、何かした?」
「なんで叩くの……ね。アンタのせいで、私振られたんだけど」
「私そんなの知らないよ。貴方の彼氏にもなにかした覚えはない」
「紗蘭、アンタの容姿に一目惚れしたんだってさ。私は、それが気に食わないの」
そういえば。かなり前に紗蘭と歩いてたらナンパされたっけ。初対面の時、二次元の住人と思ったくらいには紗蘭も容姿がいいんだよねぇ。
……過去の話であることはわかってるけど……胸が痛いな。ほんと理不尽だよね。紗蘭ばかりいつもいつもこんな目にあってさ。
「……ふぅ」
また白い光が視界を包み込み、今度は屋上。いつかの悪夢で見た、屋上だ。……あれからどれくらいだったのだろうか。紗蘭の腕や足には沢山の絆創膏が貼ってあり、少しだけ、切り傷のようなものも見えた。
もしかして……あれは、夢じゃなかった?本当に、本当に……紗蘭は飛び降りで死んでた?
「先輩がいなくなってから、一ヶ月が経過しました。本当、先輩のいない毎日は苦しくて……退屈で。先輩ももしかして、こんな気持ちだったのでしょうか?」
紗蘭は空に向かってそう問い掛ける。まるで、紗蘭と出会う前の自分のような……酷く絶望しきった顔をしている。
「大好きですよ、先輩。今、私も行きます」
そう言って紗蘭は屋上のフェンスを昇って、飛び降りた。……私のせいで、紗蘭は死んだんだ。私が先に死んだから、守れなかった。紗蘭が苦しんでることもわからなかった。手を差し伸べる事が出来なかった。
……でも、紗蘭は。紗蘭は、いつまでもずっとずっと私の傍にいてくれてた。今もこうして、私の為に戦ってくれてる。
……我ながら気づくのが遅すぎたな。まさか、リリーが紗蘭だったなんて。それなら、確かに今までの行動全部が理解出来る。ルートから大きく逸脱したのも、話し方が変わったのも。全部全部、紗蘭が私を……ローズ様をバッドエンドから救う為にやってくれていた事だったんだ。
なら、私だってその恩返しがしたい。……神様でも、悪魔でも、疫病神でも何でもいい。だから。だから、今度は……今度こそ。大切な後輩を、大好きな人を、友達を……みんなみんな、守れる力を私に下さい!
「ずっと。ずっと、私の為に戦ってくれてたんだよね。今までありがとう。気づくのが遅くてごめんね、紗蘭」
「やっと、気づいてくれたんですね。もう、遅すぎですよ……先輩」
何度目かの光が視界を包み込む。そして光が収まると、胸に剣が刺さっていて恐らく瀕死寸前な紗蘭がいた……はずだったが、私が触れた瞬間に治った。
……え?