先輩と後輩 二
「先輩……その腕の傷、どうしたんですか!?」
「うーんと……そうだなぁ。この腕の傷も含めて、私の過去について、話してあげる」
夕日が照らす橙に染まった教室の中、私は初めて先輩の腕に刻まれた夥しい量の傷跡に驚いていた。
……そういえば、こんなこともあったっけ。忘れてたけど、先輩ってあんな切ってたんだった。
「ちょっと長くなっちゃうかもだけど、いい?もしかしたら、日が暮れちゃうかも」
「そうなったら、帰りながら話しましょう。どれだけ長くなってもいいですよ。私、先輩の事知りたいですから」
「ふふ。優しい後輩を持てて嬉しいよ、ありがと。それじゃあ話すけど……中等部に入ってすぐの頃からかな?私、いじめられててさ」
この時、そんなに驚きはしなかった。そして、その事に対して自分に対して心底ムカついたのを覚えている。だって……いや、いいや。今考えてもまた苦しくなってくるだけだ。
「それからかな。どんどんどんどん、自分に対して自信がなくなってって……失敗とかも増えていってさ」
「え、そうなんですか?今の先輩からはちょっと考えれないかもです」
「だとしたらそれは虚勢はってるだけか、今が最高に幸せなだけだよ。好きなゲームがあって、同じものが好きでとても優しくて可愛い後輩もいて。……話を戻すね」
その時、先輩がとても悲しい目をしていたことを鮮明に覚えてる。初めて見た先輩の姿だったから。
「ねぇ紗蘭、自分に自信が無くなる。その行き着く先ってなんだと思う?」
「なんでしょう?すいません、あまり考えたことがなかったので」
「考えなくていいんだよ、そんなこと。……答えは、自己嫌悪。心の底から自分のことが嫌いになってくる。そして、自分を傷つけるようになる。それが自分にとっての快楽になってくる」
……久しぶりに見たけど心臓に悪いな。あの、何もかもに絶望したような先輩の目を。でも確かその時の私もそこそこ病んでたから、いくつかわかる所がある。
「気づいた時にはもう遅くてさ。何かあったらすぐ切らないと落ち着けないようになっちゃって。腕も、こんなボロボロになっちゃった」
「先輩。少しだけ、いいですか?」
「うん、いいよ。どうしたの……って、え?」
「私が先輩の何を知ってるんだって話ですけど。先輩、今までよく、一人で頑張りましたね」
「……ありがとう、紗蘭」
「何も知らない私が、先輩に関与するのは本当に先輩に対して失礼な事だとは思います。けど、先輩にもうこれ以上苦しんで欲しくないです。先輩は、私の大切で大好きな人ですから……先輩が苦しんでる時は、私も一緒に苦しませてくださいよ」
「あ……ふふ。もう、紗蘭……ダメだよ?先輩泣かしちゃったら。ほら……涙が、止まらないよ……」
「あはは……すいません」
「許して欲しかったら、このまま離さないで、胸貸して。最後まで、泣かせて」
「……はい、もちろんです。好きなだけ泣いてください」
「紗蘭……ありがとう。私にそんな言葉をかけてくれて。もう、私は一人じゃないんだね。一人で苦しまなくてもいいんだね」
『はい。私も先輩の苦しみを全力で背負います』
私が先輩を強く抱き締めて、先輩の顔を自分の胸に押し当てた時。白い光が視界を包み込んで、また元の世界に戻ってきた。
「……これは、なに?なんで私は、こんなに……え?涙……?」
「戻ってきたみたいだね、ローズ」
「……っ!近寄らないで!」
「嫌だ。私、ローズを取り戻すまでは例えローズの嫌がることでもするから」
「じゃ、じゃあ……死んで!」
「それも嫌だ。まだゲームは終わってないんだよ?私を勝たせて、なんて要求はのめないよ」
「なら……私がっ!」
ローズが錯乱してきてる。攻撃も前より雑になってきてる。けど……多分威力が増してる。そして、ローズが炎の剣を生成して、自分の胸に突き刺そうとした。
「っ、させないよっ!」
「あっ、リリー!」
「……痛っ!?」
私は全速力でローズを押す。結果として、ローズは守れたが変わりに私の胸に刺さった。……あれ?これもしかしてやばい?かなり血とかも出てきちゃってるよ?
「待って、リリー!」
ローズがそう私に呼びかけた時。また、白い光が視界を包む。光が収まり、私の視界に映ったのは私の、先輩とのプリクラが貼ってある携帯だった。携帯の画面には『momoe』と書かれた人物からのメッセージが表示されている。そして、それを眺めながらただ唖然としている私がいた。
メッセージの内容。それは……
『紗蘭、朝早くにごめんね。ママとパパからは何があっても絶対言わないようにって言われてたんだけど、どうしても隠したくなくて。あたしも凄い紗蘭に言うのは酷だと思ったんだけど……きっと、遅かれ早かれ知る事になると思うから。えっと、今から言うことは嘘じゃないからね。単刀直入に言うと』
『峰華が、死んだ』
次回から再び視点がローズに戻ります