到達
「……思ったより随分と早く来たのね。シンや影の子達は他の子達が相手してる感じかしら?」
「そんなことはどうだっていいでしょ。ローズはどこ?」
「ローズならいるじゃない、ジークの後ろに」
「……え?」
「アハッ」
「ジーク!受け身……!」
そう言った時にはもう遅く、ジークは先輩に思い切り蹴り飛ばされていた。……うわ、意識飛んでるし……
「アハッ、アハハハハハッ!」
「ごめんなさいね、ローズったら狂っちゃって……ただ笑うことしか出来なくなっちゃったの。私はじっとしてるから……思う存分相手して頂戴」
「ローズに、何をした」
「何って……毎日朝昼晩の三回にかけて闇魔法をかけ続けてあげただけよ?ご飯の容量で」
「……アハッ!」
先輩はただ笑ってるだけだ。でも、確かな殺意を感じる。事実今も私に対して本気の鎌鼬を……って何これ……今までに感じたことないくらい痛いんだけど!?
「あら、どうしたの?抵抗しないと死ぬだけよ?……まぁ、私としてはその方が助かるんだけど」
「……しょうがない。戦うしかないか」
死ぬ勇気ならもうできてる。大丈夫。何も怖くない。
だって一回死んだんだから……ね?
「アハッ、アハッ、アハハッ!」
「魔法の同時使用……まぁそれはもう散々見てるから問題なし!」
「アッハハハハッ!」
──────……らん
「!?あ、しまっ!」
先輩は炎・水・風・雷・闇と五つの魔法で剣を作って私に向けて放つ。難なく避けれていたのだが、耳にほんとに小さく私を呼ぶ声が聞こえて、何発か喰らってしまった。
「先輩……?」
「アハッ、アハハハッ!アッハハハハッ!」
「私です、鈴乃紗蘭です!私はここにいます!」
「アハッ!」
私が呼びかけると、どんどん先輩の勢いが増してく。じゃああれは、まぐれ……?
「はぁ。私も全力で行かせてもらいますよ、先輩。いや……ローズ!……私に答えて!神秘の剣!」
収納魔法から神秘の剣を取りだして、その力を解放する。神秘の剣を白いオーラが包み込む。……しょうがない、もう今は戦う事だけに集中しよう。ローズと、先輩と戦うのは楽しくて、大好きだから。例えどんなに怪我しようと、血を流そうと。
「フフ……フフフ!アッハハハハ!」
「忘れたとは言わせないよ?私、ローズの大抵の魔法なら捌けるんだから」
ローズは無数に分裂する火球で攻撃してきた。……よし、このくらいなら私でも対処できる。……とはいえ攻撃出来る隙がないからなぁ。
「……ねぇ」
「あら、喋れたの」
「ねぇリリー……一緒にさ、狂おうよ?楽しいよ?ずーっと笑ってるの。何も考えずにただ、ただずっと笑ってるの。もう辛いとか、苦しいとか……思わなくていいの」
「嫌って言ったらどうする?」
「だったら、無理やり狂わせてあげる。今の私には闇魔法があるから……力ずくでもこっちに引き込んであげるよ」
「ならやってみなよ?」
先輩が喋れたところで、先輩が狂っていることに変わりはない。そして、狂わされたキャラクターが一緒に狂おうと手を差し伸べてくる……うん、実にアニメとかでよく見た展開だ。
「あははっ、殺しちゃっても文句は言わないでね?」
「殺されたくはないかなぁ?そしたらきっと正気に戻ったローズが大きく苦しむことになっちゃうでしょ」
「じゃあ、死なないように頑張ってね!」
相変わらずえげつない攻撃だこと。自信過剰っていう訳では無いけど、先輩はかなり責任感とか仲間意識を大切にしてる人だから……きっと私を殺したってことを知ったら大きくショックを受けるだろう。もしかしたら、そのまま死ぬ可能性も有り得る。だから極力死ぬ訳には行かない。
「私が死んだらきっと遅かれ早かれ先輩が死ぬ。私が貴方を殺したらすぐに私も死ぬ。……そうだなぁ。ね、ローズ」
「なぁに?リリー」
「勝負しようよ。殺した方が負けってルールの」
「別にいいけど……負けたらなにか罰ゲームはあるの?」
「自殺でどう?心中だよ」
「いいよ、面白いね。しよっか、心中」
改めて先輩の目を見ると、いつもの澄んだ空のような水色の瞳ではなく、濁った青色にどこかグルグルとしているような目をしている。
「それじゃあ始めね」
「うん、スタート~!」