衝突 四
「改めて考えるとすげぇなマイって。本気出したらイリア達より格段に強ぇ」
「ローズセンパイも前言ってたが、マイセンパイはそもそもに魔力量がえげつないのに加えて魔法のセンスが抜群なんだと」
「さて……こいつがマイの写鏡だとしても、だ。影だからな、情はないだろ。本気でやらねぇと殺されるからな」
「それくらいわかってるっての!」
……とは言ったものの、マジで殺されてもおかしくねぇんだよな。魔力を感じるだけでかなり体が暑くなっちまう。
「……」
「リアッ……」
「……油断すんなよ?こうなっちまう……あー、熱っ」
一瞬の出来事だった。影のセンパイが手をこちらに向けた次の瞬間、炎の槍を作ったのだろうか。リアンの頬から血が流れていた。
「いざ戦ってみるとローズの言ってた事が身に染みてわかるな。ローズは軽々しくやってるが、普通あんな高速で魔法をぶっ放すにはかなりの魔力量とそれを扱えるだけの技術が必要だ」
「ていうかそもそも、ローズセンパイの技を一回見ただけで真似できるところもやべぇだろ……」
だってオレだってあのセンパイの真似するのに二ヶ月くらいはかかったぞ?それを一回見ただけで真似できるあたり……本当に魔法のセンスがずば抜けてるんだろうな。一番やばいのはローズセンパイだけど。
「遅くなって申し訳ありません。先程私も終わりましたので加勢致します。……それで、戦況は?」
「マイが魔力解放した。これだけでもうわかるだろ」
「なるほど……劣勢って事ですね」
「三人がかりで勝てるかどうか……」
「勝てるかどうかは分からねぇ。だからよ。レイス、ラーベル、死ぬ気で勝つぞ」
「おう!」
「もちろんですとも」
ラーベルも加わった訳だが……これで多少は状況が動いてくれたら助かる。でもわかる。本能が告げている。三対一でも絶対苦戦は強いられる。下手したら負傷じゃ済まない可能性だって大いにある。
「剣」
「三人まとめて一気に攻撃ってか!」
「くっ……この!」
マイセンパイを囲うように、黒く燃える剣が無数に現れ次第にオレ達目掛けて突撃してきた。
しかもご丁寧に追尾機能もあるし、威力も一本一本が洒落にならないほど強烈だ。
「く……痛ってぇ!」
「レイス!大丈夫か!」
「あぁ、心配すんな!このくらいは覚悟してた事だ!」
もちろん、というのもあれだがオレは防ぐことが出来ず、いくつか貰ってしまい頭から血が流れ始めた。
……まぁハナからこのくらいは覚悟してたしな。もっというと最悪死ぬ気でいる。よってこのくらいなんてことねぇ!……とも言い難いな。多分もう既に体の至る所を火傷している。
「ラーベル、合わせるぞ!」
「はい、兄様」
「水よ、打ち壊せ!」
「風よ、吹き飛ばせ!」
「……っ」
リアンが大きな水球を生成し、そこにラーベルが風魔法をぶつける。風魔法を受けた水球は、高速でマイセンパイにぶつかっていき、片足がすぅっと消えていった。……よし、再生はしていない。
「おっしゃ!何とか片足にはできた!」
「とはいえ、です。向こうは一度たりともこちらの攻撃を避けてはいませんでした。手を消せてない以上油断は禁物です」
「ローズセンパイに置き換えても、最低限しかあの人は足を使わねぇからな。じゃあ次は手狙おうぜ、手」
「……剣」
先程までと同じくまた無数の剣を生成した。が、今度はその無数の剣を自分の周りで物凄い勢いで回している。
「これは……擬似鎌鼬、ですか」
「オレらを遠ざけてかつ、崩せないほぼ無敵なガードになると」
「なぁレイス、時間停止が無効になったのは近くによった時だけだよな?」
「……言われてみればそうだな。近づいた時だけだ、センパイが反応してきたのは」
「ならよ、俺に一つ策がある。タイミングが大事だが……決まれば絶対倒せるギャンブルだ」
「珍しいですね、兄様が賭け事など」
「そうでもしねぇと勝てねぇんだよ」
「いいぜ、乗ってやるよ、そのギャンブル。んで?策は?」
「俺が一発柱魔法であの剣をぶっ壊す。んで、マイが反応する前にお前が時間を止める。そして俺ら三人でありったけを込めてぶっぱなす。……どうだ?」
「何とも兄様らしい。けど、少しでも希望があるなら縋り付きましょう」
あのセンパイは影だ。もし時間停止中に魔法を浴びせても一切通用しないだろう。つまり、時間停止が解けた一瞬で当たるように調整しないといけない。……なるほど、確かにタイミングが重要になってくるわけだ。
「よし、やるか。……水よ、我が力の全てを解き放て
!」
「……レイス、今です!」
「わかってるっての!……時よ!」
リアンが柱魔法でセンパイの擬似鎌鼬を剥がしたのを確認して、すぐさま時間を止め、リアンとラーベルに触れる。
「時間停止はもって何秒だ?」
「長くて十秒。……九、八、七」
「……六、五……よし、今だラーベル!今度は融合魔法だ!」
「はい、分かりました兄様!」
「風よ」
「水よ」
「一つとなりて、」
「「討ち滅ぼせ!」」
「三……二……一」
時間停止が解けたと同時に、影のマイセンパイに二人の融合魔法がぶつかりドガァァァァンっと轟音が響き渡る。段々と、魔法が消えていき、そこには……
「誰もいない……って事は」
「ええ、やりましたね。我々の勝ちです」
「……あー、疲れた。倒せたには倒せたが動けそうにねぇなぁ」
「じゃあ少し休んでましょうか、我々は」
「あぁ、そうだな。……頑張れよ、リリー」