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衝突 二


油断してしまったばっかりに、イリア様の腕に炎風の鋏が刺さる。


「……痛い、ですわねっ!」

「おっと」


すかさずイリア様は炎魔法でシンと距離を置く。

そして、ほんの少しだけほっとした次の瞬間の事だった。


「……!?」

「イリア様!?」


急にイリア様の両腕が大きく切り刻まれ、両腕から大量の血が溢れ出す。……これは、鎌鼬?いやでも、そんな……


「鎌鼬……でしたっけぇ?ローズちゃんの事たっくさん調べさせてもらいましたからぁ……これくらいのことは出来るんですよぉ。そしてぇ、炎風の鋏を経由して腕に鎌鼬を流せば……」

「……貴方であれば、研究すれば直ぐに使いこなせる程度にはなれるのでしょうね、シン」

「はい、沢山研究させてもらいましたしぃ……沢山実験もさせてもらいましたからぁ……多分風と炎ならローズちゃんにも匹敵するんじゃ?」

「ローズで、実験ですって……?」

「楽しかったですよぉ?私よりも強い人の事をもっと知れるしぃ……ローズちゃんの苦しむ様子がとても心地よかったのでぇ」


……落ち着きなさい、マイ・サヴェリス。きっと、怒りに身を任せても返り討ちに会うだけ……それに、これは挑発です。落ち着くのです。冷静に……


「……許してくださいまし、マイ。私、今かなり頭に来てますの」

「落ち着いてください、イリア様。今ここで怒りに身を任せたところで、返り討ちに会うだけです」

「マイ。あなたは……あなたは、何も思いませんの?」

「私だってかなり頭に来てます!今すぐにでも、心のままに怒りたいです!でも、そうしたらきっと!」

「……私、自分が空気のようになるのって大っ嫌いなんですよねぇ……」


そうですね、ここは戦場です。ちんたら話していたらただの的。ひとまず、何とかシンに勝てる策を考えないと……


「ひとまず、戦いましょう。策は戦いながら考えればいい」

「まぁ……そうするに越したことはありませんわね」

「ふふ……ありがとうございまぁす。お嬢様も、イリア様も……まだまだその程度では無いのでしょぉ?」


【私に、一つ策がありますわ】

【策、ですか……】

【えぇ。決まれば、間違いなくこの状況を打開できるでしょう。けど、失敗すればかなりのリスクを伴いますわ。……覚悟はよろしくて?】

【……はい、やります。少しでも、勝てる可能性があるなら】

【じゃあ、伝えますわ。──────……】

【……無理かもしれない、ですけど。できるだけやってみないと、ですよね!】

【感謝しますわ、マイ】


「一発私も大きなの、行きますよ!……舞い散れ!」

「これはぁ……確かお嬢様がローズちゃんと戦ってる時にみせた魔法ですね?爆発させられるとめんどくさいですねぇ……全部取っ払って……」

「からの……水よ、降り注げ!」

「すごいですわね、マイ!けれど私もまだまだ負けていませんのよ!……雷よ」


イリア様が伝えてくださった作戦は、確かに決まりさえすれば倒せそうだと思った。けど、その分こちらにもダメージはあるし、失敗したならばそれこそ一巻の終わりだ。だからこそ、少しは自力で削る必要がある。私は炎で黒く燃える花弁を作り、それを満遍なく舞い散らせる。そしてすかさず威力をだいぶ抑えて水魔法を雨にする。


「あぁ。もしかしてぇ、また痺れさせようとしてるんですかぁ?でももう同じ手は……あれぇ?今度は足が動かせませんねぇ?」

「考えたりしなかったんですの?この雨に、雷が混入している可能性を」

「そう来ましたかぁ。でも、それだとお嬢様も巻き込みませんかぁ?」

「ちゃんとそこも意識してるに決まってますわ!マイには、雷耐性を付与しましたから」


思ったより早く、チャンスが来た。腕ならまだしも、足なら……!


イリア様は、あの時にこう言っていた。


【私とマイ、全部に等しい魔力を込めた融合魔法をぶつける。ただ、それだけですわ】


もしこれで、仕留めることが出来なかったら私もイリア様も動けなくなって、シンに殺されてそのまま終わりでしょう。少し、怖い気持ちもありますが……それでも、私はイリア様を信じたい。この数年で強くなった自分を信じたい。だから……全力、ありったけをぶつけます


「やりましょう、イリア様」

「えぇ、そうですわね、マイ。……手を」

「はい」


イリア様と私は手を繋ぐ。訓練で、私とイリア様に向けてローズ様が出してくださった課題。ローズ様がいうに、私とイリア様はとても相性がいいらしく融合魔法を少しでも極めよう、との事だったので沢山イリア様と練習した。それで、思いのほかすぐに極める事が出来た。


「雷よ」

「水よ」

「二つは一つとなりて」

「我が大いなる力と化せ!」

「「貫け!」」


イリア様の雷魔法と、私の水魔法を合わせて最初から放つ。私達の手から放たれたのは、一本の小さな小さな、槍のようなもの。その槍のようなものは、とてつもない速度でシンの体を貫いてすぅっと消えていった。


「……がはっ」


次の瞬間。まるで一瞬の出来事のように、シンの口から血がこぼれて、その場に倒れ込んだ。


「体が……動かせ、ません……」

「上手くいって良かったですわ。……この勝負、私達の勝ち、ですわね……はぁぁぁ」

「です、ね……これも、ローズ様のおかげです……」

「……お嬢様、随分と強く、逞しく育たれたのですねぇ」

「もう、私はあの頃の私じゃありません。忌み子でも、呪われた子でもありません。私は幸せなごくごく普通の女の子です」

「……お嬢様、まさかあなたにそんな目を向けられる人が来るなんて思ってませんでしたぁ。もう、私に虐められるようなあなたでは無いのですねぇ」

「私だって、まさかあなたに勝てるなんて思ってませんでしたよ。あれが決まってなかったら、きっと負けてましたし」

「イリア様、あなたってかなり勇気のある方なんですねぇ」


今、私達は倒れながら話をしている。さっきまで殺されるかもしれなかった人とゆっくり話すのも変な気分ですが……何より彼女は私のメイドですから。


「そう思われるのでしたら、きっとその勇気は全部ローズがくれたものですわ。私も最初は勇気なんてありませんでしたから」

「少し、眠くなって来てしまいましたぁ……時期にお迎えが来ると思うのでぇ、それまでご一緒に仮眠でもどうですかぁ?」

「私も少々瞼が重いですし……そうさせてもらいますわ」

「でしたら……私も。少し、眠りにつきましょうか」

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