新たなる炎の恋情
「ホントにみんな、昨日のこと忘れてるっぽいね…」
「うん…」
朱華に謎の能力が目覚めた日の翌日。登校するも、昨日のように彼女のことを噂するような声は一切聞かれなかった。
終業後、朱華と青羅は話しながら帰路についている。
「やっぱあの変な金ピカ男が記憶消したってこと…?じゃあ、私らはやっぱシジンノチカラってのを持ってて、またあいつに狙われるってこと…?」
「そうだろうね…。私より朱華の力に先に気づいてたっぽいから、たぶん、昨日朱華が植木鉢燃やしたの見てたんだと思う。だとしたら、私達があの学校に通ってるのはばれてるだろうね…」
「ええ…。昨日は運よく撃退できたけど、またできるか微妙だし…。家でも試してみたんだけど上手くいかなかったんだよね…」
「…」
「で、何か分かった?」
朱華が青羅の前に立って尋ねる。
「まったく、ちょっとは自分で調べる気ないの…?」
「だって私が調べてもどうせ分かんないし。青羅に調べてもらった方が早いじゃん」
「はあ…。まあそうだろうけど…」
「ね?で、どう?」
「うん。たぶんこれ」
青羅はスマホの画面を朱華に見せる。
「ん…?赤い鳥…?」
「そう。これが朱雀」
「え?!じゃあ何、私ら実は鳥なの?!」
「たぶん…っていうか絶対違う!それに私ら、って、私を巻き込まないで」
「だって…」
「もう…説明するから。四神、っていうのは東西南北を司る神様なんだって。それぞれ異なる動物の姿をしていて、東が青龍、西が白虎、北が玄武、そして、南が朱雀」
「え…つまり、私達は神…?」
「というより、神の力を持ってる、かな…?朱雀は炎神…炎の神様みたいだし」
「いや、どっちにしても凄くない?!神の力って…!」
「ちょっと朱華、声大きい!…けど、凄いからこそ、この力が狙われるんだろうね…。たぶん、昨日の人だけじゃなくて、他にも」
「…そっか。それは…なんか嫌だな…」
「…うん。本当…なんでこんな…」
「はあ…とりあえずこの力使いこなして、誰かきても追い払えるようにしとかなきゃかな…」
「そんな、毎回上手く行くとは限らないじゃない」
「けど、青羅は力コントロールできるでしょ?」
「…肝心なところで使えなかったから、意味ないよ…。咄嗟に力を使える、朱華の方がよっぽどすごい。私なんて…」
「何言ってんの!気味悪いとか言いながらちゃんと練習して力使えるようになってんだから、青羅はすごいよ!」
「それは…いつ力が発動するか分からなかったら、もっと気味悪いし…。それに…」
「もう…昨日は昨日!それに、ぽかんとしてた私のこと連れ出してくれたでしょ!だから、そんなに自信なさそうにしないで!青羅だけが頼りなんだから、しっかりしてよ」
「…励ましてくれてるのかと思えば、結局自分のため?」
「どっちも!細かいことはいいじゃん。とりあえずさ、私にも力使うコツ教えてよ」
「はあ…しょうがないな。…ありがとう、朱華」
「いいってことよ!」
笑い合う2人。
青羅の方を見ていた朱華は、前方から人が歩いてきているのに気付かなかった。その人物と、朱華はうっかりぶつかってしまう。
「った!ごめんなさ…って、あ」
「ちゃんと前見ろよ」
朱華とぶつかった少年は、冷ややかな瞳でそう告げる。
「玄斗!…って、そっちだって私らのこと見てなかったんじゃないの?!」
「ぶつかってきたのはお前だろ」
「は?!別にわざとじゃないし!」
「知るか。ってかうるさい」
「はあ?!」
「ちょっと朱華…」
玄斗と呼ばれた少年にさらに突っかかろうとする朱華を止める青羅。玄斗は彼女らを無視し、スタスタと去って行った。
「もう、何なのあいつ…!」
「まあまあ。大好きな北条君と会話できてよかったじゃない」
「いや、それにしてもあの言い方は腹立つ………って、ん?」
「ん?」
心なしか顔が熱くなってきている朱華。一方の青羅は、平然としている。
「…私…あいつのこと好きとか、青羅に言ったっけ…?」
「言わなくても態度でバレバレだから」
「う…っ、さすが青羅…」
「いや私だけじゃなくて、クラス全員気付いてると思うけど…」
「嘘でしょ?!」
「本当。朱華分かりやすすぎなんだよ…」
「そんな…。…って、待って。クラス全員…?…ってことは、まさか本人も…?」
「…まあ、よっぽどの鈍感じゃなければ気付いてると思うよ?」
「嘘でしょ……」
衝撃の事実に、朱華は茫然とする。
今年から同じクラスになった北条玄斗。抜群のルックスとクールな性格で多くの女生徒から人気を集めていたが、朱華も例に漏れなかった。口では悪く言いつつも密かに慕っていた…つもりが、まさか周囲どころか、本人にもばれていたとは…。
「…その様子だと、北条君に彼女がいるのも知らない?」
「え??!!」
落ち込んでいたところに、さらに追い討ちをかけられる。
「知らな…いや、え、噂とかじゃなく、ホントに?!」
「時々お嬢様校のすごく綺麗な女の子が校門に迎えにきて一緒に帰ってるでしょう?間違いないと思うよ」
「全然気付かなかった…。ってかお嬢様校ですごい美人の彼女て…さすが玄斗…」
朱華はすっかり意気消沈してしまった。
「もう、女の子がそんな暗い顔してちゃダメじゃない!もっとテンション上げないと!」
「いや、そんなこと言われても…って、え?誰?」
ふと顔を上げると、目の前に黄金の衣装を纏った女(?)が立っている。
「ちょっとオウル!アタシが先に見つけたのよ!手柄横取りしようとしないでくれる?!」
「あら、早い者勝ちよお?というか、私はキャロルだって何回も言ってるでしょお、ミーナ」
「どっちでもいいわよオカマ!」
「あん、ひどーい」
キャロルと名乗る者に加え、ミーナと呼ばれる女もやってきた。この女も、黄金の衣装だ。
「…な、何か変なの来たんだけど…」
「だから呆れてる場合じゃない!あの服…昨日の男の仲間に違いないよ。今のうちに…」
「あーら、逃げようったって無駄よ?四神の力を持ったお嬢さん方?」
後ずさりしようとした青羅達の後ろに、いつの間にかキャロルが移動していた。目前にはミーナがいるため、挟み撃ちにされた形だ。
「さて、大人しく四神の力を渡してくれるかしら?」
「あなた達…この力をどうしようっていうの…?」
「そんなのアタシらの勝手でしょ?大人しく捕まってくれる?」
「あからさまに悪用しそうな人達に、大人しく渡せないわよ…!」
そう言いながら、青羅は内心焦っていた。話しながら意識を集中させて力を使えたとしても、果たして2人を同時に狙えるのか…。朱華と連携が取れればよいが、そもそも朱華の力が発動するかも怪しい。
「はあ…もうめんどくさ。だったら多少、痛い目見てもらうかな!」
ミーナは言葉が終わるや否や、朱華達2人に飛びかかる。キャロルも2人に近付いてきた。
こうなったら賭けだ…!青羅は朱華に肘打ちで軽く合図をすると、キャロルに向かって手をかざす。朱華も気付いたのか、ミーナに向かって手をかざした。
2人の髪と瞳の色が変わり始める。だが、ミーナ達の動きの方が早い。力が発動する前に、それぞれ手首を捕まれてしまう。変わりかけた色も元に戻ってしまった。
しくじった…!そう思った瞬間。
「きゃああああああ??!!ちょっと何?!」
「いやああああああ!!!!」
突然、ミーナとキャロルに大量の水が降り注ぐ。そして、2人は掴んだ手首を離してしまった。
「はあ…はあ…も…何なのよ…」
ようやく水から逃れたミーナ達。再び朱華達を捕らえようとする。
…が、今度は突風が吹き、その勢いで飛ばされてしまった。
「何…?とりあえず、助かったってこと…?」
「そうみたい…。というか、さっきの、水と風…。もしかして、私達以外の、四神…?」
「え…?」
ーーー
「…なんで助けてあげたの?あの子達」
「別に。あの金ピカ集団何かうざかったし」
「まったく。何だかんだ優しいんだから、玄斗は」
「お前も手貸しただろ」
「玄斗に付き合ってあげただけよ」
「あっそ。もう行くぞ」
先に進む玄斗。彼と話していた少女は、その場でポツリと呟いた。
「あれが今の"朱雀"みたいだよ?…ウィガー」