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作戦決行日 ②


目の前には草原が広がる。

日差しがあるものの、風が吹いていて本当に気持ちがいい。

草原もその風に乗って一面波打っている。

そう、ここは数日前にアザレアと話していた草原だ。


「なんだ!!ここはどこだ!!私の軍隊はどこだ!!」

「イテテ、おい!傭兵連中はちゃんといるか!?」


目の前でこの町の長のディランとドーズが慌てていた。

ただ、広場一帯にいた兵士も傭兵も全員来ているようで、二人とも少し安心しているようだ。


目の前の広い草原の300mぐらい奥にディランとドーズの軍勢が、

こちらには前線にロイが、そのちょっと後ろに魔王が、

そして僕の横にマツリがいるという状況だ。


そう、今回の作戦はこの草原に相手を集めてコテンパンにするのが主な目的だった。

親分を単体で叩いても恐らく次の親分ができてしまう。

だからこそ徹底的に潰したかったのだ。


ただ、この二人の力は強すぎるため、街中での戦闘となると周りに被害が出てしまう。

だから、周りに被害が出ない場所まで相手を一か所に集めて転移させる必要があった。

たまたま、この町に入るときに出入口が一つの町であることは知っていたから、

敵を煽れば、そこで待っていることが想像できた。


だからこそ、ロイに煽り分を書かせ、アザレアには転移呪文を仕込んでおいてもらった。

まぁ、ここまでいけば十分だ。

後は戦うだけ。


そう思っていたが、ディランとドーズの様子を眺めていたロイは本物のバトラーかと思うような優雅な所作でその場にいる全員に語り掛ける。


「みなさま。申し訳ございませんが、今回の戦場までご案内させていただきました。

我々はマスター・ヴァルを中心とした小さな旅団でございます。私はバトラーのロイ、あちらにいるのはメイドのアザレアと申します」


おいおい、急にどうした?作戦にはこんなことなかったはずだが。

すると、横にいたはずのアザレアも一歩前に出て本物のメイドかと思うような、おしとやかな所作で全員に語り掛ける。


「我ら三人でみなさまのお相手をさせていただきたいと思っております。痛い思いをしたくない人などは、今すぐ逃げていただいて結構です。我々も手加減出来かねます故、ご理解のほどよろしくお願いいたします」


うん?俺も戦える頭数に入ってなかった?

俺はもちろん一般人だから戦えないよ。面倒だし。

あとこの宣言は何のためだ?


そう思った次の瞬間、二人は剣と杖を構えて叫ぶ。


「俺が相手をしてやる!マツリちゃんのため……さっさとかかってこい!!」

「あなたたちのお相手をさせていただきましょう!あなた達がやって来た所業、必ず後悔させてやるわ!!」


二人の叫びを聞いて、少しだけわかった気がする。

ロイとアザレアは勇者と魔王という仮面を外して、あくまで僕のバトラーとメイドとして、今回の戦いに取り組みたいという気持ちがあるのかもしれない。


ロイにとっては、勇者という人間の希望の仮面をかぶっている限り、

マツリという人間の敵であろう魔族を助けるために戦うのはおかしいと感じてしまう。


アザレアにとっては、魔王という魔族の希望の仮面をかぶっている限り、

人間の町を気にして戦うのはおかしいと感じてしまう。


ましてや、勇者と魔王が共に同じ目的のために戦うなんてもってのほかだ。

絶対にあってはならない。

それは『勇者』と『魔王』という存在そのものの否定になってしまう。


だから、二人はその仮面を脱ぎ捨て、あくまで僕のバトラーとメイドとしてこの戦いに挑みたかったのかもしれない。

自分たちの素直な気持ちに従うために。

そして、今回の作戦を少しでも成功させるために。


なら、僕も二人の期待には応えないと。

この僕をマスターとした小さな旅団として戦うことを宣言しないと。

僕は大きく息を吸って二人と同じく叫んだ。


「我ら三人の旅団に怖気づくのかい?さぁ、かかって来いよ。この三流どもが!!」


そして深呼吸を挟み、さらに続けて叫ぶ。


「ロイとアザレアよ……ディランとドーズ以外すべて殲滅してこい!!」


これで満足だろう。

ロイとアザレアも僕の方を向いてニコッとしてくれた。

そしてマツリも僕の横でニコッとしてくれる。

三人の笑顔を一度に見たのはこれが初めてかもしれない。


「「御意に!」」


二人の息がぴったり合った返事をもらった。


色々言われてしまったディランとドーズは面を食らっていたものの、

顔を真っ赤にしながら叫んでいる。


「行け!兵士ども!!奴らの首を取ってこい!!!」

「傭兵ども!!奴らの首をとったものに褒美を用意しよう!!行ってこい!!」


ディランの兵士は、剣や杖を構える。

ドーズの傭兵は、こん棒や弓の武器を構えた。


そして、ピタッと風がやむ。

ついに戦闘が始まった。

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