水の都「カルム」 ③
「おい起きろ。マスター」
「目を覚まさすために、燃やそうかしら」
「ありだな」
「ロイさん!アザレアさん!マスターさんにそれはダメです!!」
周りがうるさくて目を開く。
すると、周りにロイとアザレアとマツリがいた。
体を動かそうとするが、脇腹が痛い。
「いてて……ここはどこだ?」
「マスターさん!目を覚ましたんですね。ここは宿屋です」
「宿屋?」
脇腹をかばいながらゆっくりと起き上がる。
周りを見ると、今日荷物を置いた場所だった。
「なんでここに僕がいるんだ?」
「はぁ、あんたねぇ。あれだけボコボコにされて覚えてないのかしら」
アザレアは呆れたように話してくる。
あぁ、急に現れた青年にボコボコにされたんだった。
そして思い出した……この二人は僕を助けてくれなかったんだ!!
「……思い出した!!なんでロイもアザレアも助けてくれなかったのさ!」
「マスターさん、助けれなかったというのが正解じゃないかしら」
「マツリちゃん、どういうこと?」
「はぁ、どうしてマスターはこのメイドの話を聞いてないんだ……」
ロイは深くため息をつく。
アザレアが話しかけてくる。
「マスター、馬車の時にも言ったけど……私が作ったカチューシャと蝶ネクタイにかけた魔法は、私たちが何か剣とか魔法で剣気や魔力を放出した瞬間に解けるのよ。イメージすればわかると思うけど、魔力とかを抑える魔法なんだから、放出したらさすがにカバーはできない」
あっ、馬車で僕だけ関係ないと思って聞いていなかった話っぽい。
確かにアザレアが言っていることは真っ当だ。
隠す魔法なのに表に出したらそりゃバレる。
少し申し訳なく思えてきた。
「……それはすまなかった。確かに二人ともよく助けるのを我慢してくれた」
「いや、マスターを助ける気なんてなかったよ。俺はマスターに負けてるし」
「私もよ。負けると思ってなかったから」
うん、前言撤回。
やっぱり助ける気がなかったのか。
というか、そもそもの疑問が浮かぶ。
「……というかなんでボコボコにされないといけなかったんだ?」
「それは、私たちが魔族だからじゃないの?そういう風に聞こえたけど」
アザレアはつまらなさそうに答える。
でも、それなら追加で気になることがある。
「それならどうして魔族だとわかった君たちを攻撃しなかったの?」
「さぁ。そんなの知らないわよ」
そりゃここにいる奴が知っているわけないか。
本人以外に理由なんて知る由もない。
「あいつはいまだに魔族が本当に敵なのか、心の底では悩んでいるだけじゃないのか」
「なるほど……ん?」
僕はロイの返事が少しおかしいのに気づく。
「ロイ……お前、あいつのこと知っているのか?」
「あぁ。知ってるよ。元同僚みたいなものさ」
「元同僚?つまり勇者のパーティーってことか?」
「そういうこと。あいつは元うちのパーティーで剣士をやってた。名前はシズク」
「なるほど……だから私のかけた魔法が見破られたのね。納得だわ」
おいおい、マジかよ。
勇者パーティーの一員と俺は戦っていたってことか。
「そのシズク……さんは魔族を敵か迷うタイプだったのか?」
「いや、単純にあいつはあまり殺しが好きじゃなかっただけさ。魔族であっても自分が殺される場合だけしか殺さなかった……と言いつつもあいつの剣の腕ではほとんどの魔族は殺すことは無理だから、俺の前では魔族を切り伏せたことはなかったな。すべて峰うちさ」
確かに僕の時も峰うちだった。剣で切られていたら、今頃僕は生きてはいない。
その話を聞いてアザレアは驚く。
「そんな奴、人間にいたんだ。全員ヤバイやつだと思ってわ」
「そうだな……勇者パーティーで言えば、シズクが一番平和主義、その次に俺。あと数人いるけどシズクと真逆の奴もいたから、ある意味それでバランスが取れていたのかも」
「そうなのね」
アザレアは興味なさそうに返事をする。
ロイもこれ以上アザレアの前でその話をしたくないのか、話をやめる。
ここまでの話をずっと聞いていたマツリがボソッと呟く。
「わたし、あの人は苦しんでいるように見えました。私たちを見る目も優しそうだったし……何よりマスターさんを攻撃しているときは辛そうでした」
僕もロイもアザレアも黙る。
あいつが苦しそう?そんな風には見えなかったけど。
アザレアはマツリの頭をなでながら話しかける。
「マツリちゃん。その感性、絶対に大切にしなさいね」
「?」
マツリは意味が分からないのか首をかしげる。
まぁ、言いたいことはわからなくもない。
ロイやアザレアのような勇者・魔王だといろいろなことにフィルターがかかってしまう。
特に魔族のアザレアには、人間のシズクがそんな風には全く見えなかったのだろう。
ただ、そのようなしがらみ小さいマツリだからこそ、今の発言が出たのだろう。
そして急にロイが手を叩いた。
「はい!これでこの話はおしまい。あいつに会わなければこの町はまだまだ探索できるし、ご飯をどこで食べるか決めよう。まだ夜じゃないし、今なら空いているでしょ」
僕は外を見る。確かに日は傾きかけているが、夜まではまだ時間がある。
この町の名物って何だろうか。
せっかくだから名物が食べたい。
「ロイ、この町の……」
ドォーーーン!!!!
この町のどこかでものすごい音が鳴る。
爆撃を受けたような音だ。
そして様々な悲鳴が聞こえる。
この町で何かが起こったみたいだ……