水の都「カルム」 ②
「っ!すごい……」
「わぁ!とってもきれい!!!」
「……すごいわ」
目の前にはとても幻想的な世界が広がっていた。
頭上から水がかなりの量落ちてきている。
ただ、ガラスのような透明なもので半円に区切られているから、もちろん濡れない。
そして、180度どこを見てもその水が流れて滴り落ちているのが見えた。
うーん……あえて言うなら水族館が一番近いかも。
さらに、太陽の光がその水を照らすため、光がうねって見えて……それがとてもきれいだ。
「そうだろ!この町一番隠れスポットさ。みんなにこれを見せたくてこの町に来た」
「ロイ、やるじゃん。僕は結構気に入ったよ」
「ロイさん!!ありがとうございます!!とっても感動してます」
「マツリちゃんにそう言ってくれたなら、頑張って馬車を運転してよかったよ!」
マツリはその場を動かない。
あまりに綺麗なので見とれているのだろう。
そしてアザレアも少し言いよどみながらもロイに言う。
「……まぁ、人間にしてはやる方じゃない」
「相変わらずお前は素直じゃないなぁ。人間の世界も悪くはないだろ?」
「そうね。人間というよりか、環境には罪はないからね」
「まぁ、その環境を生かせるのが人間のいい所ってことだな」
アザレアは人間を完全には認めなかった。
まぁ、魔王が人間の世界をきれいだとすぐに受け入れるわけもないか。
仕方ないことではあるが。
僕は風景に見とれていると、剣を持った青年がこちらに近づいてきた。
青年はラフな格好をして、剣以外は何も持っていないようだ。
かなりイケメンに見えるものの、顔は全く笑っていない。
というか、僕に用でもあるのか??
そして話しかけてくる。
「すみません、つかぬ事をお聞きしますが……その後ろのメイドのお二方はあなたの従者でしょうか?」
「はぁ、そうですが何か?」
僕が従者を連れるような風貌には見えなかったとか?
まぁ、確かに風格とかはないけど。
僕が声をかけられているのをロイが見ていて、眉をかなりしかめている。
アザレアも気づいたようだが、助けようとはせず、見ているだけ。
おい、見ているだけじゃなくて、助けろよ。
ただ、この青年はじっと僕の方を見て話す。
「あなたは……あの二人が魔族だとわかったうえで雇っていますか?」
「……そうだな。それが何か?」
シラを切り通せないと思ったので素直に答える。
というか、アザレアの魔法で作ったカチューシャのおかげで魔族とは気づかれないはずなのに……
僕が答えた瞬間、青年は剣を構える。
「理由次第では、僕はあなたを切らなければならない。なぜ魔族を?それもここまで高度に隠してまで」
なるほど。魔族が嫌いなタイプの人間ということか。
うーん、どうやって答えたものか。
すこし悩んでいたが、まだこちらに気づかずに周りを見ているマツリが見えて、自然と答えが漏れ出てしまった。
「……大切な仲間だからっていうのはダメなのか?」
青年は呆気にとられる。
そして剣を握りなおした。
「そうですね……申し訳ございませんが、ダメです。魔族は人間の敵ですから。では、行きます!」
青年はこちらを剣でこちらを切ってくる。
いやいや、野蛮だし危ないって!
助けてくれると思ってロイとアザレアを見たが、ロイもアザレアも動こうとしない。
おいおい……助けてくれないの?
目の前を剣が通っていく。
いや、当たったら死ぬって!!
あと、いつもみたいに剣が遅く見えない!!
「待ってくれ!!この二人は何もしないって!!」
「ダメです!魔族に例外なんて許すことはできません!!」
目の前の青年は剣をさらに振ってくる。
そして僕の脇腹に剣がぶつかった。
痛いと思う間もなく、その勢いで僕は壁まで吹き飛ばされる。
そして殴られた場所に鈍痛が走る……呼吸ができない。
青年は僕のところまで歩いてきて声をかける。
「今日はこれまでにしておきます。必ずあの二人をこの町から追い出しておいてくださいね」
青年は倒れている僕を放置してどこかに立ち去っていく。
クソっと思いながら、僕は意識をそこで失った。