表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/37

目覚めると ①


ふと、目が覚める。

そして目だけ動かして、周りをゆっくり見まわしてみる。

壁には絵とか飾っていて、暖炉のぱちぱちという音が聞こえる。


天国って、意外とアットホームなんだ。

起きるのも面倒だから、また寝ようかなと思ったものの、

お腹が減っているのに気づいて、体を起こす。


「あっ……!!!」


僕の横で声が聞こえる。

どこかで聞いたことがある声だったが、まぁ気のせいだろう。

天国にはまだ誰も来ていないはずだ。


「ヴァルさん!!!」


僕の胸に飛び込んでくるやつがいる。

天国にはまだ友達はいないはずだが。

そう思って、飛び込んでくるやつの顔を見る。


僕が助けたマツリだった。

マツリは涙を流して喜んでいるようだ。

いや、なんで君がここに居るの?

僕は状況が理解できなくて混乱する。


すると、扉が開いてロイとアザレアが入ってくる。


「ういっす。マスター。具合はどうだい?」

「マスター、久しぶり。調子はどうかしら?」

「……いや、どうなってるんだ……」


意味が全く分からない。

僕は胸を銃弾で射抜かれたはずだ。

だってこの目で見たから。穴が開いたのも、血が噴き出すのも。

そう思って胸に手をやる。


……ない。穴がない。

自分の服をめくって、激痛があった場所を見る。


……ない。傷が全くない。

ますます混乱する。


「僕は胸を射抜かれて死んだはず……二人のどちらかが魔法で助けてくれたのか?」


その問いかけにロイもアザレアも首を横に振る。


「俺は、回復魔法がからっきし駄目だからね。攻撃しかできん!」

「私も一緒。攻撃魔法しかできないから。あと、この世界の回復ができる普通の術師だったとしても、あなたは死んでいたわね。胸を射抜かれている人なんて普通は助からないから」


もう考えるのをやめたいぐらい意味が分からない。

じゃあ誰が……

その様子を見かねたアザレアが答えを言ってくれる。


「あなたが助けた……今、目の前にいる子よ」


僕はアザレアたちから目の前に目線を移す。

そこには、起きたときに抱き着いてきたマツリがいる。

マツリはゆっくりと口を開く。


「ごめんなさい。これまで言えなかったんですけど、私……この世界でもかなり特殊な部族の出身で……」

「……」


もう、異世界のお話だから驚くのはやめた。

勇者と魔王の時でお腹はいっぱいです。


「私の部族では、物心ついた時から各々が決めた場所に魔力をため続けることが習わしになっています。私の場合は腰あたりですね」

「で、その魔力をいざという時に使うってことか」

「そうです。ただ、攻撃系ではなく、あくまで回復系なのと、自分自身には使えません」

「……そんな大切なものを、こんな僕に使ってしまったってことかい?それは申し訳ないな……」


僕が話した瞬間、マツリはすこし黙る。

そしてついには泣きはじめてしまった。

何かまずいこと言ってしまったか?


「『こんな僕』とか……言わないでください。私の命と人生をすくってくれた……大切な人なんですから」


そう言うと、マツリは自身の首を人差し指でつつく。

よく見ると、前まであった無機質な首輪が無くなっていた。

なるほど。あの後、ちゃんと首輪を解除したってことか。


補足を入れたいのか、アザレアは僕に声をかけてきた。


「ヴァル、あんた本当に幸運なのよ。マツリちゃんの部族は本当に魔界でも幻なんだから。回復分野を独自で研究しつくした部族。現在の回復技術の数段上をいっているけど、自分の信念に従う場合しか使わないで有名。その魔法を見るまでその部族であることはわからない……」

「魔王様、申し訳ございません。私の部族では、この魔法を使う時以外は隠さないといけないしきたりでしたので……」

「別に良いわよ。そのしきたりは知っていたし。でも、初めて出会ったわ」

「そうだと思います。一生、呪文を唱えない者がほとんどなので。私たちの部族はいろんなところから目を付けられているので……」


話を聞いているものの、マツリがそんなすごい術師には到底見えなかった。

ただの幼い女の子。僕にはそうにしか見えない。


その様子を見ていたロイが頭をかきながら僕に怒鳴る。

「ヴァル!!お前はとりあえずマツリちゃんに言うことがあるだろう!!」


確かにそうだ。

異世界に来て、初めてロイに正しいことで怒られた気がする。

僕はマツリの方をちゃんと向く。


「マツリちゃん、助けてくれて……ありがとう!」

「いえ、私の方こそ。助けてくれてありがとうございました!!」


僕とマツリは抱きしめあった。

その様子をロイとアザレアがからかう。


「マツリちゃん、俺と一番仲良しだと思ったのになぁ。やけちゃう!」

「馬鹿ねぇ。誰があんたみたいな馬鹿と仲良しになるのよ。私と一番仲良しだと思っていたのに、ヴァルに取られちゃった!」

「何を!俺が一番だったはずだ!!ここで魔王城の続きやるか!!」

「えぇ、望むところよ!!」


二人がさっと間合いを取る。

うん、僕もちょっと元気になったし、一度叫ばしてもらおう。

大きく息を吸って……


「二人とも……ここから出ていけ!!!!!」

「「……はい」」


ロイもアザレアも、しゅんとなって部屋から出て行った。

その様子をマツリちゃんと二人で笑っていた。


「ヴァルさん、とりあえずまだ病み上がりなので、もう少し寝ていてください」

「そうするよ。ありがと」


マツリも気をつかってくれたのか、すぐに部屋から出て行ってくれた。

うん、まだ僕はこの旅を続けることが出来そうだ。

そして僕はもう一度目を閉じ、夢の中に入っていった……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ