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作戦決行日 ④


僕とロイ、ディラン、マツリの四人はディランとドーズの目の前にたどり着く。

部下をすべて再起不能にされた二人は、現状が信じられないという顔で立ち尽くしていた。

そして二人とも呟いている。


「馬鹿な……我が精鋭が……」

「あのクソバトラー……なんでこんなにも強いんだ……」


目の前で起こったことが信じられないのか、うわの空のようだ。

そして僕が他三人より一歩前に出て話しかける。


「さて、お二人さん。まだ戦いますか?それともあきらめて捕まってくれますか?」


目の前の二人は現状を把握したのか、目に正気が戻る。

そしてディランはドーズの後ろに隠れ叫ぶ。


「ドーズ!こいつらをどうにかしろ!!……ん?後ろのお前は確か……」


ディランは少し目を細めている。ただ、ドーズが短剣を取り出してこちらに話しかける。

「このクソどもめ。俺が相手を……!」


ドーズはその先まで言えなかった。

刹那、ロイがドーズの短剣を自分の剣で弾き飛ばし、その自分の剣を放り投げた上で、顔面に一発、拳を入れたからだ。


ドーズの前歯は粉々に砕かれて、遠くに飛ばされていった。


「それ以上しゃべるな。空気が汚れるだろうが」

ロイが吐き捨てるように話す。そして僕の方を向いて話しかける。


「マスター、申し訳ございません。差し出がましい真似を」


うーん、なんて返すのが良いのか……

まぁ、素直に返しておこう。


「いや、ありがとう。すっきりしたよ」

「ありがとうございます」


ロイが礼をする。

ここまでバトラーっぽいと、本当に勇者だってことを忘れてしまいそうになる。

そして盾を完全に失ったディランが顔を真っ青にしている。


「命だけは……助けて……」


その言葉にアザレアがディランの方に歩みながら話しかける。

歩み方も、顔のポーカーフェイス度合いも、まさにメイドそのものに見える。


「お前、まずは魔族の奴隷の解放する鍵はどこにあるのかしら?」

「私の執務室の机の一番上の引き出しのなかだ!なぁ、もういいだろ?」


アザレアの顔は眉をピクリとも動かさない


「次だ。これまでどれぐらいの数の魔族を奴隷として扱って来たのかしら?」

「……わからない!数までは覚えていない!!」


アザレアの顔に血管が浮き出てくる。


「次だ。奴隷になった魔族はどのような扱いを受けてきたか知っているかな?」

「知らない!!本当だ!!奴隷になった魔族の後なんて俺は知らない!!」

「なら、同じ目にあってもらいましょうか」


これまで出会って話した中で、ここまで冷たい声のアザレアを僕は知らない。

アザレアは詠唱する。

そして、頭の上にバカでかい黒い球を作り出す。

黒い球の中は何かが渦巻いている。


「では、死んでください」


そう言うと、アザレアは球をディランに投げようとする。

僕は結局その様子を黙ってみていた。

それはその判断が正しいかではなく、なんて声をかければよいのかわからなかっただけだ。

ロイも同じく、黙ってみていた。

ただ、後ろから叫ぶ声がした。


「待ってください!!殺すのだけはおやめください。殺しても何の解決もできません!!」


それを止めたのはマツリだった。

その言葉を聞いてアザレアはさらに顔を真っ赤にしてマツリを怒鳴る。


「我を魔王と知って、止めるか!!!」

「はい。今は魔王様ではなく、ヴァルさんのメイドのはずです。であれば、私も意見しても良いはず。殺すか否かの判断は、ヴァルさんが決めるべきではないですか?」


マツリはまっすぐな目でアザレアの方を見る。

アザレアはその目をじっと見つめ……

ふぅと言って黒い球を全く違う場所に投げた。


「そうね。間違ってないわ。マスター、どうするの?」


アザレアはさっきまでの怒りがどっかに飛んで行ったようだった。


「そうだね。マツリちゃんの言う通り、殺すべきではないかな。殺した後が面倒なので、やめてほしいね」

「……承知しました」


アザレアはメイドのように礼を僕にして、僕の後ろに下がる。

その様子をずっと見ていたディランがぶつぶつと呟いている。


「……魔王?魔王だと……聞き間違いか?どうしてこんなところにいるんだ?勇者はいないのか……」


ディランがとあることに気づいたようだ。そして叫ぶ。


「あっ!!!!そこのバトラー!!!見たことがあると思ったら、勇者じゃないのか!?」


ロイはにこりともせず返事をした。


「いえ、ヴァル様のバトラーでございます」

「そんなはずはない。お前の顔、国の祭典で見たことがあるぞ!!」

「見間違いでしょう」

「そんなはずはない。お前は私と握手もかわしたじゃないか」

「いえ、記憶にございませんね」


ロイはシラを切るが、ディランは近づいてまで話しかける。


「絶対そうだ。私が間違うはずがない。どうしてだ!どうしてこんなところにいるのだ!!」


ロイは剣を握って僕の方を見たが、僕は首を横に振った。

そして僕がディランに近づく。

ディランはロイに夢中で気づかないようだ。


そして、握りこぶしを作って……顔面を思いっきり殴ってやった。


ディランは吹き飛び、意識を失ったようだ。

そして僕が三人に話しかける。


「これで……目的達成だ!!!」


僕とロイ、アザレア、マツリとハイタッチをする。


そしてマツリに話しかけに行く。

アザレアを止めてくれたお礼を言いたかったからだ。


「マツリちゃん、ありがとう。アザレアを止めてくれて。本当に助かった」

「いえ……魔王様も魔族のことを思ってだとは思いますが、私はこれ以上、人が死ぬのを見たくなかったので」

「そうだね。僕も同じ意見さ」


そう言って、ロイとアザレアの方を向く。

二人とも、どっちが多くの敵を倒したかで喧嘩している。


その様子を僕とマツリが笑ってみていた。





パン!!!!





僕は音のあった方を向く。

そこには気づかないうちにドーズが立ち上がり、銃を構えていて、白煙が銃口から上がり始めているのが見える。


ロイとアザレアとマツリの方を見てみると、音があった方を向いている途中だ。


またか。

この異世界に来た時と同じように、世界がすごくゆっくり見えている。

そして、銃弾は確実にマツリの心臓の方に向かっているのがよく見える。


今回はこぶしを作って殴るとかの問題じゃない。

このままだとマツリが打たれてしまう。

ただ、場所的にも僕がマツリを押して外すのは間に合わないと直感的にわかる。



僕は戦争では何も役に立たなかった。

そして僕がこの異世界に呼ばれた理由が今わかった気がする。

勇者と魔王を配下にできて、色々楽しかったが、ここまでのようだ。



僕は、マツリと銃弾の間に飛び出て、壁になった。

そして、時間は急速に進み始め、僕の胸のあたりに一つ大きな穴が開き、その穴から血が流れるのを自分の目で見た。


衝撃で地面に倒れる。

胸が焼けるように痛い。

意識がほぼ飛びかけている。


目の前もぼやけていて、何か三人が叫んでいるようだ。


「……ル!お………」

「………るのよ!!…………」

「………さん!!…………ねぇ……」


うん、まったく聞こえない。

そしてお腹の痛みが限界で分からなくなってきた。


ただ、この世界に来た理由がちゃんとわかって嬉しかったし、

ロイもアザレアも、最終的に打ち解けあって本当に良かった。

あの二人なら、この世界をより良い方向に持っていけるだろう。


僕が助けたマツリもとっても優しい子だから、もしかしたら二人を助けてくれるかもしれない。


そう思うと、体がじんわりと温かくなり、お腹の痛みも消えてきて自然と眠くなってきた。

本当に面倒なことが多かったけど、楽しい数日だったなぁ。

良い人生だった……

ただ、一つだけ心残りがあるとすれば……あいつらともっと旅がしたかった。




・・・・・・




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