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作戦決行日 ③


ディランの兵士五百名、ドーズの傭兵五百名がずらっと目の前に並んでいる。

ディランの兵士で剣を持っているものとドーズの傭兵でこん棒を持ったものが我先にと走り出す。

大体全体の半分ぐらいか。


「相手は立った三人だ!!さっさとやっちまうぞ!!」

「俺が先にやってやる!!」

「いや俺だ!!褒美は俺の物だ!!」


褒美を貰うためなのか全力走ってくる。

たった三人相手なので、相手もなめているようだ。

うーん、元気があってよろしい。

ただ、やっぱり短絡的だなぁ。


「アザレア!やっちゃってください!!」

「そうね。馬鹿につける薬はないから、いったんボコボコにさせてもらいましょうか!!」


アザレアは詠唱を始める。

この時のためだけに魔王と言う最強の魔族が二日間も準備をしていたのだ。

ここに連れてきただけで、何も策を練っていない訳がない。


準備していたからか、一瞬で詠唱が終わるとアザレアは叫ぶ。

「燃え尽きろ!!!この馬鹿どもが!!」


そう言った瞬間、頭上から数えきれないほどの火玉が空から五月雨のように降ってくる。

一つ一つは小さい物の、あまりの数なので避けようがない。

うーん、綺麗な流れ星だ。


僕の方からはそう見えるものの、相手からはそうは見えず、地獄の業火が降り注いでいるように見えるのかもしれない。

まぁ、知ったこっちゃないが。


「熱い!!!」

「ヤバイ!服に火が!!!助けてくれ!!!」

「水!!水をくれ!!!」


さっきまで勇んでいた兵士と傭兵が我先にと戻っていく。

ただ、後ろで杖を構えていたディランの兵士は魔法の防御を展開し、守っているのがわかる。

また、水の魔法を使って、兵士の火や近くに付いた火を消しているのも確認できる。

たまたま同じ場所にいた傭兵で弓を持っている奴らは助かっている。


そして、火の玉の雨もやみ、一面が焼け野原になった。

まだ、勇者は一歩も動いていないし、何なら剣も目の前で突き刺して両手で握っているだけだ。

ただ、手には力が入ってるように見えるし、何よりも目は敵を睨んでいるので、かなり怖い。


すると、ディランとドーズが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「近くに行けないなら、矢を放て!!!それなら火の玉も怖くないだろう!!」

「魔法隊!!さっさと魔法で攻撃しろ!!」


その言葉を聞いた兵士と傭兵が返事をする。

「あいあいさー!」

「承知しました。皆のもの、構え!!」


そう言うと、残っていた二百人の傭兵が弓をひき、二百人の兵士が杖を構えて詠唱し始める。

そして、弓と魔法が放たれた。

ただ、アザレアが先に詠唱しているのが見えていたので、安心してこの弓と魔法の流れ星を鑑賞できる。

魔法はアザレアと同じ火の魔法のようだが、火の大きさも数も小さいし少なかった。

さっきの魔法を見てしまっては、迫力に欠けるなぁ。


そして、アザレアの詠唱が終了した。


「もっと強い攻撃でかかってきなさい!!」


そう言った次の瞬間、地面が揺れ、目の前に地面が隆起して大きな壁ができた。

その壁に弓矢や魔法が当たる音がした。

うん、安心してみていたけど、さすがに目の前まで弓が飛んでくるのを見るのはマジで怖かったな。

そしてアザレアが叫ぶ。


「バトラー!!!さっさと仕事をしな!!」

「了解!待ってました!!」


ロイは目の前の剣を引き抜いて構えて走り始める。

思った以上にロイの足が速いのにびっくり。


「あのくそバトラーを射止めてしまえ!!!」


ドーズが叫び、たくさんの弓矢が飛んでくる。

ただ、アザレアの魔法でいたるところの地面がかなり隆起しているため、相手の弓矢魔法がかなり当てづらくなっていた。


そして、もし当たる場合でもロイは造作もなく飛んでくる弓や魔法を剣で叩き落としていた。


そしてロイは地面が隆起していない敵の50m前方ぐらいまでたどり着き、一言。


「吹き飛べ!!」


そう言うと、剣を横に振った。

轟音と共に剣の斬撃が敵に飛んでいく。

そして、敵のおおよそ半数以上が吹き飛ぶのが見えた。

ひと振りでこの強さ。


いや、剣の斬撃を飛ばすとか、ロイって本当に勇者だったんだ……としみじみ思ってしまう。

うん、今度から口答えするのはやめておこう。


ロイはそれで終わらず、敵本陣に乗り込んでいく。

横ではアザレアが詠唱している。

アザレアが唱えたその魔法は敵にはいかずにロイの方に向かう。


ロイはその魔法を受け取り、さらに走る速度が上がる。

まるで雷のような速さだ。

恐らく、アザレアは補助魔法をロイに向けて放ったのだろう。

ロイの様子を見て、アザレアが誰に言うわけでもなく呟いた。


「ほんと癪だけど、やってきなさい」


ロイは敵本陣に近いのでどう答えたかはわからない。

ただ、ロイがニコッとしたような気がした。


補助魔法を受けたロイはほぼ残像しか見えない。

だが、敵の兵士や傭兵が、一人、また一人と空高く飛んでいくのははっきりと見えた。

恐らく、一人ずつ攻撃しているのだろう。

僕のディランとドーズを除いて叩き潰せという、言いつけを守るためかもしれない。

ただ、あまりの速さと強さで何も対応できてないみたいだ。

まぁ、これも戦闘が見えてないから推測でしかないが。


そして数分もたたぬうちに……ロイが僕のところまで戻ってくる。

そしてアザレアとロイが片膝を落とし、優雅なしぐさで話しかけてくる。


「マスター、ご指示通り、すべてを殲滅してきました」

「マスター、ちゃんと二人だけ残しておきましたわよ」


実際、戦場で動くものはいなくなった。

相手の陣地にはただ二人、ディランとドーズが立ち尽くしているのみ。

それ以外は地に伏せているか戦意を完全に失っている。

ただ、ほとんど死んでいないように見える。

そこは二人の優しさなのかもしれない。


そして僕は立ち尽くしている二人に向かって、ゆっくりと歩きはじめた。

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