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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕が自分の手で決めたこと。運命に抗う者と命を投げ出そうとする者の出会いが運命を変える。

作者: tomoyuki gomi

※この小説には、見る人によっては刺激が強いワードが含まれております。ご了承の上、お読みください。

※この小説はフィクションです。実在の人物や施設とは一切関係ありません。

※オマージュキャラ注意


某年春、とある大学の敷地内にて……


「ふぅ……緊張した〜」

水色髪の少女がそう呟く。


「……もうあの日から2年かぁ……」

その少女は、過去の出来事を思い起こす。



『ううっ……あああああああああああぁ……』

(はるか)くんっ……!ううっ……』

『…………』


2年前、とある病院でその日、一人の人間が安楽死を選んだ。

これは運命に抗った一人の男の娘と、生きることを諦めかけていた一人の少女の物語である……



5年前……

シャッシャッシャッ……

「……っ」

ツルッ

「あっ……」

カタカタ……

震える手を見て、僕は察してしまう。

(もう……ペンを持つことすら……)


僕、長月(ながつき)(はるか)はALS(筋萎縮性側索硬化症)という運動神経細胞が侵される病気だ。

症状が悪化すると、全身が動かなくなり、食べることも話すことも出来なくなって、最後には呼吸も__


その時、同じALSの患者さんが目に入った。

「……っ」

ガタッ

色々と思うところがあった僕は、椅子から立ち上がってその人に近づく。

「あの……っ」

「ちょっと君……」

スタッフさんが止めようとすると、その人は目の前の機械に目で信号を送る。

『ダイジョウブデス』

機械音声が流れる。

「そ、そう……」

取り敢えず聞きたいことを聞けそうな状況になったので

「質問してもいいですか?」

と聞く。

『ドウゾ』

すぐに機械音声が返ってくる。


「あ……あなたは……なんの、ために……っ生きてるんですか……?」


僕がそう聞くと患者さんは目を見開き、こっちを見た。

「……っ」

マズイことを聞いてしまったかと、すこし緊張する。

すると、その人は目を虚ろにして、目を閉じてしまった。

と思うと、目でタイピングをして、機械音声が流れた。


「本日のデッサン会はこれで終了です。ありがとうございました!」

スタッフさんがそう告げて、デッサン会は終了。

僕はそのビルの階段を登り、屋上に向かいながら、『安楽死』について調べている。


「えーっと……『……日本で安楽死は認められていない 外国人が安楽死を行える国はスイスただ一つである』 かぁ……」

屋上に付き、ため息をつくとフェンスに突っ伏して

「……あーーーーーーーっ、死にてぇーーーーーーっ」

と声を上げた。

「え……?」

その時、横から声が聞こえた。

「えっ?」

思わず僕が反応すると、横には大体中学生くらい、制服姿で水色髪の女の子が居た。

「あなたも死ぬの?」

そう聞かれふとその娘の足元を見ると、靴とバックが置いてあった。それを見てなんとなくその娘がここで何をしようとしてるのか察した。

「………」

(あーーーー……)

そう思いつつも、聞かれた事に答えることに。


「んーっとねぇ……自殺とはちょっと違うかな」

「というと?」

「うーん、簡単に言うと、ほっといても僕、もうすぐ死んじゃうから」

「え?」

驚いた顔でこっちを見る少女。

初対面だけど、何かこの娘には似たようなものを感じる気がする。

だから僕は、彼女とコミュニケーションを図ってみる。

「君さ、ALSって知ってる?」

「いや……」

「筋萎縮ナンタラって言って、全身の神経が徐々に麻痺していって、最後は呼吸が出来なくなって死ぬんだと、余命はあと2〜3年ってお医者さんが言ってたかな」

「……私にはピンピンしてるように見えますけど」

「まぁ今はね……それでさっき、このビルの下の階でやってたデッサン会で僕と同じALSの患者さんに会ってきたんだよね。

手足は動かないし、自分で呼吸出来ないから、機械を付けて呼吸をしてるんだ。動くのは眼だけ。でも、眼だけでタイピングして機械が代わりに喋ってくれるんだ、凄いでしょ?」

「う、うん……」

おっと、ついつい熱中して……

「あ、ごめんごめん、初対面なのに喋りすぎちゃってごめんね、これ癖でさぁ……」

「は、はぁ……」

「……それで、君はなんで死にたいの?」じーっ

「わ、わたしはっ……」

「いじめとか?」

おどおどしながら少女は答え始めた。


「……私は他の子よりちっちゃいし、走るのも遅いし、勉強とかも出来ないから、クラスのみんなからいじめられてるの、だからそれで……」

「死にたくなった、と……?ふーん、なるほどね〜、まぁ確かにそりゃ死にたくもなるわな、僕も昔そんな経験は何度かあるし分かるわかる」

「いや、何かその、フォローとかないんですか!?」

「冗談冗談」

「〜〜っ」

少女は少し不貞腐れた表情になった。

ただ実際、昔病気とか関係なしに彼女と似たような動機で死のうとしたことは本当だ。そこは冗談ではない。

不貞腐れた彼女の表情を見て、僕はこう提案してみる。


「やめちゃえば?学校」

「えっ?」

「だって学校なんて世の中にはいくらでもあるよ?その中のたったひとつの学校が合わないってだけで死んじゃったら勿体なくない?」

「……っ、それが出来ないから悩んでるんですよ、私はまだ中学生だし、私には自分の生きる道を選ぶ権利なんて無いんですよ……っ」

彼女はそう声を上げる。

それを慮り、僕は彼女にこう告げる。


「……君は、人が死ぬ所、見たことある?」

「えっ?ありませんけど……」

「良かったら見に来てよ、僕、自分に誇りを持って死にたいんだ」

「え……」

そう言うと僕は彼女に近づき

「僕が死ぬまで、君も死んだらダメだよ」

「う、うん……」

彼女の頭をポンと叩いた。

それは彼女にとって救いとなっただろうか。

せっかくだから、もう一ついい事を教えとこうかな。あの人たちのあれならきっと彼女も生きる勇気を貰えるだろう。

「あ、そうだ、暇なときで良かったらYouTubeで『友人AB』って調べてみて」

「『友人AB』……ですか……?」

「うん、そこのチャンネルの配信、殆ど毎日やってるから見にいってみるといいよ、気晴らしとかにはなると思うから」

「わ、分かりました」

「それじゃ、僕はこれで、君もしっかり生きなよ〜」

そういって僕は屋上から去った。


『友人AB』というのは友人Aさんと友人Bさんの2人がコンビで立ち上げたチャンネルで、時には2人分かれてソロでそれぞれ生配信をしていたり、時には2人一緒に面白いゲームを面白おかしく実況している動画を出してたりするチャンネルだ。

今はチャンネル登録者数も4桁に乗っかり、常連リスナーも初見さんも割と多い。

僕もこのリスナーの1人だ。昔死にたがってた時に見つけて、救われたことがある。

……いや、死にたがってるのは昔となんら変わりないかな。

そう思い、階段を降り進めると自分の体が震えているのに気づいた。

「……虚勢を張ってても、死ぬことへの恐怖は拭えない、か……」


元々僕には生きることに対しての執着が薄かった。

両親がいつも大喧嘩するわ、それで離婚するわ、離婚するやいなや父親は飲酒自殺するし母親は殺人事件起こしてブタ箱に入るわで散々な人生だった。

死にたいな、なんて思ったことはその時から数えきれないほど。周りからも『殺人犯の息子』なんてレッテル貼られて、生まれつきからちょっと変な男女の特徴が入り混じった身体の事も含めいじめにあったり非難されたりしてきた。

こんなだから、変に「生きたい」なんて執着も持たなくなった。


今は公務員の人の助力と奨学金にお世話になりながら一人で生きている。けど……一年前ALSが判明してからは、一人でひっそりと失踪してしまったほうがいいのでは無いかとすら思うこともある。


そんな折に見つけた、自分と似た動機__今にして思えばくっそどうでもいいちっちゃい事__で命を投げ出そうとする少女。

……僕の言葉で、少しはあの娘もしっかりと前を向けるようになったかな。

そう思うと、ちょっとだけ誇らしい気持ちになる。

プルプルプル

そうしてると携帯から着信音が鳴る。

相手はさっき話してた公務員の人の清田(きよた)小春(こはる)さんだ。

「もしもし〜」

『もしもし〜悠くん?今大丈夫かな?』

「大丈夫ですよ、どうかしました?」

『せっかくだから、このあといつものところでBさんの配信見よ〜』

「はいはい、いつものとこでね」

さり気ない会話をして、その場を後にする。

こうして過ごせるのも、きっと僅かだと噛み締めながら……


日も暮れて、夜景が綺麗になっていく街並みを眺めながら、僕は『バー 喜久松』に足を踏み入れる。

「こんばんは〜」

「あ、悠くん!こっちこっち!」

「悠くん、いらっしゃ〜い」

店内に入ると呼びかける声が二つ。

小春さんと、このバーのマスター、松原(まつばら)安奈(あんな)さんだ。

「マスター、御無沙汰してます」

「ご丁寧にどうも〜、そろそろ放送始まるよー」

「はーい」

小春さんは桃色の髪にゆるいウェーブがかかっている女性で、心優しい人。

マスター……安奈さんは黒髪のロングヘアの女性で、大人っぽさを感じる人。

昔色々と世話になって、今の僕にとっては恩人といってもなんら差し支えない人たちだ。

バーに備え付けているテレビがYouTubeの画面に切り替わり、19:30を迎えると……


『はーい、今日も生放送はじめるよー!』

そうした元気な声が画面から聞こえてきて、Bさんの生放送が始まった。

僕が友人ABの二人を見つけたのはBさん側の配信に来てそこからリスナーとして馴染んでいったからであり、何を隠そう小春さんも安奈さんもリスナーの一人なのである。特に小春さんはネット経由でAさんBさん、その他大勢のリスナーさんのイラストを描いていたりする。

……小春さん、結構忙しいはずなんだけどね。


「そういえば、悠くんここ最近どうよ?元気にやってる〜?」

配信を見ながら、他愛もない会話をしているとマスターがそう聞いてきた。

「一応元気ですよ。……いつ体が動かなくなるかは分かりませんけど」

「……そっか」

マスターはやっぱり大人だ。さりげなくではあるけど、僕のことを気遣ってくれている。


すると画面から

『そういえば悠さんさ、ここ最近全然ゲームに参加してないよね……なんかあったのかな』

そんなBさんの声が聞こえてきた。

それを聞いた小春さんは

「あれ?そういえば悠くんって、BさんにALSの事、話してないんだっけ?」

と聞いてきた。

「あー……話してないですね、Bさんにも、Aさんにも……個人での事だし、あの人たちに迷惑かけないかなぁ、なんて思っちゃって……」

「あー……」

言葉に詰まってしまう。目の前にいる二人以外に友人ABのリスナーさんで僕の病気の事を知る人はいない。僕の事で心配をかけたくないし。

「まぁまぁ小春ちゃん、悠くん自身が決めたことなんだしアタシ達が口を挟むのは野暮ってもんよ」

「そ、そうだね……」

「まぁ、辛くなったらアタシ達に言ってよ、ここのバーでいつでも待ってるからさ」

「ありがとうございます、マスター」

「いいっていいって」

「それじゃそろそろ失礼しますね」

僕は二人に一礼して、バーを去る。

「うん、それゃあまたね〜」

「小春くん、またね〜!」

後ろから、二人の声が聞こえた。



1年後

ALSの症状が悪化し、車椅子での生活を余儀なくされた僕は、小春さんに車椅子を押してもらいながらとある拘置所に向かっていた。

「ねぇ、本当に悠くんのお母さんに会うつもりなの……?それに、安楽死なんて……」

「うん、もう決めたこと、だからさ……」

「……」

小春さんは心底複雑な思いを抱えてそう。まぁ目の前に死ぬつもりの人がいればそういう気持ちにもなるかな……

拘置所に着いて、面会の手続きを済ませる。

「それじゃ、ここからは僕一人で行くから、小春さんはここで待っててください」

「う、うん、分かった……」

小春さんの表情から見て取れる。多分心配されているんだと思う。


面会室に付くと、そこで待っていたのは母だった。

随分とやつれた様子。刑務官さんいわく、あの事件以降から自分のやった行いをかなり悔いていて、その度に僕のことを思い起こすそうだ。

「久しぶりだね……母さん」

「悠……なんで車椅子に乗ってるの……?」

「まぁ……病気になったから、としか言えないかな?」

「そ、そう……本当にごめんなさい、ごめんなさい……」

母さんは本当に申し訳無さそうに謝って来た。

「……別にいいよ、母さんのこと、恨んじゃいないし。それに、もうすぐ僕は死んじゃうしね」

「……えっ?」

母さんは僕のカミングアウトに驚いた。

「実は僕、あのあとALSになってさ……元々病院に勤務してた母さんなら、ALSのこと知ってるよね?」

「そ、そんな……そんなこと……うわああああああああああああああああ!!!!!」

母さんは崩れ落ちて泣き出してしまった。そしてそのまま面会は強制終了した。


「君、まさかALSだとは……」

刑務官さんにもそう驚かれた。

そもそもALS自体が指定難病の一種であり、かかりやすいのも60〜70代のおじいちゃんおばあちゃんの年代だから、僕みたいな若い人がかかっているのは珍しいのだ。


そして拘置所の入口まで戻ってきた。

「ど、どうだった?」

小春さんが心配そうな顔をして聞いてきた。

「……まぁ、一応は大丈夫……」

「そ、そっか……」

そんな言葉しか返せなかった。


拘置所を離れてその足で『バー 喜久松』に向かう。そこで僕は小春さんとマスターにスイスで安楽死をするつもりだと言うことを打ち明けた。

「……そっか、悠くんはそうするつもりなんだね……」

「そんなの駄目だよ!安楽死なんて……そんなこと……」

「でも……」

マスターは察して何も言わなかったけど、小春さんからは反対された。

「そんな残酷なことはないよ……僕はもう自分で歩けないし、頑張ってきた絵だってもう書けない!自分で分かるんだよ……!!」

止められるのは分かってた。だからできる限り冷静に言葉を紡ごうとする。


でも、やっぱり感情が抑えられない。

「もうすぐ話すことも息をすることも出来なくなって、機械に繋がれて一生を過ごせと?」

「落ち着きなよ悠くん!頑張って生きている人もいるでしょ!?」

小春さん、あなたが一番落ち着いてないんじゃ?なんてツッコミが飛び出そうになるが、抑える。

「……同じ病気の人に散々会ってきたよ……呼吸器に繋がれて自分の代わりに機械が喋る人や、家族に介護されているのに感謝の言葉も伝えられない人、皆頑張ってるのは分かってる!でも僕は嫌なんだよ!」

「ッッ……!」

「ほんと、皆勝手だよ……!僕にだって自分の生き方くらい選ばせてよ!」

その時、小春さんが急に肩を持ってきた。

「ちょ、ちょっと小春ちゃんっ……!」

「こ、小春さん……?」

「自分勝手なのは悠くんだよ!お母さんがどんな気持ちで悠くんを産んだか、どれほど悠くんの成長を楽しみにしてたか……!もう悠くんだけの命じゃないんだから!死ぬなんて勝手なこと、言っちゃ駄目だよ!」

その声から、悲しみと、怒りと、心配されていることを感じ取った。

小春さんは僕を抱きしめ泣きじゃくっていた。

「……じゃあ……他にどうすればいいっていうんですか……?身体が動かなくなったら、死ぬことだってできないんですよ……!?」

もう、涙が溢れて止まらない。



そして、2年後___

とある高校にて……

私、満島(みつしま)遥奈(はるな)はなんだかんだで高校に通っている。

死のうと思って来た屋上であの人に出会って、もう少しだけでも生きてみようかなって気がしたのだ。

それに、あの人に教えてもらった『友人AB』の配信を見始めて、今や常連リスナーになってから毎日が楽しい。

そんな気持ちでTwitterを漁っていると、とある書き込みが目に入った。

そこには


『ハルカ@haruka

この度、スイスでの安楽死が決定しました。

今まで僕の事を支えてくださった皆様、ありがとうございました。』


と書かれていた。

「あっ……!この人……!!」

そのツイートをしている人のアイコンを見て、私は驚いた。

あの時、屋上で会った人だったのだ。

安楽死……?もしかして、あの時言ってたのって……


『僕が死ぬまで、君も死んだらダメだよ』


あの時言われた言葉が反駁(はんばく)する。

そうだ、あの人に会いに行かなくちゃ。

でも、いつ安楽死するんだろう……?

そのツイートを調べてみると……

『ハルカ@haruka

実行するのは3ヶ月後の9月2日です』

というツイートを見つけた。

(3ヶ月後……)


家に急いで戻る。

「お母さん」

「何なのよ騒々しい、ただいまくらい言いなさいよ」

「……お母さんっ、お願い!百万円貸してください!スイスに行かなきゃなんないの!!」

急いで家に戻った私はお母さんに手を合わせてお願いする。

「はぁ?何寝ぼけてるのよ!うちにそんなお金あるわけ無いでしょ!」

「〜っ」

「そーだよおねえちゃん」

お母さんに断られてしまう。妹にも呆れられる。私はなんとしてもあの人に会わないと……っ!

「約束したの!!!最後に会いに行くって!私が今生きているのはその人のおかげなのよ!!!」

そう声を上げた。

するとお父さんが

「……貸してやる」

と言ってくれた。

「ちょ……お父さん!?」

「お父さん!」

「……実は安奈姉さんからお前に渡すように言われててな……行ってこい」

安奈伯母さんがそんな気遣いをしてくれてたなんて……本当にありがとう。

「お父さんありがとう!行ってくる!」

そう言われてお父さんから金を貰って家を飛び出した。



3ヶ月後、スイスのとある病院__

僕は看護師さんとカウンセリングをしていた。

「私達は安楽死のお手伝いをさせていただきます

点滴のクレンメを解放すると致死薬があなたの身体に流れ込み、あなたはゆっくりと意識を失います」

「……はい」

「何か聞きたいことはありませんか?どんな些細なことでも遠慮なく聞いてください」

「……他の人たちって、どんな理由とか事情で安楽死を選んだんですか?」

「そうね……それぞれ理由は違ったけれど、助かる見込みのない病に苦しんでいたわ。

癌、神経難病、どれもみんな過酷でみんな必死で病気に立ち向かった。

必死に足掻いて最後に辿り着いた答えが、自分で命の選択をすることよ」

「命の選択……」

「人はいつか死ぬわ。だから、自分の最後は自分で決めたい。強い意志を持ってここに来られた方ばかりね」

「そう、ですか……」

「もしまだ迷っているのなら、いつでもやめていいのよ?1週間ここで過ごして、ゆっくりと考えなさい」

そういって看護師さんは席を立つ。

「分かりました。ありがとうございます」

「では、今日のカウンセリングはこれで終わります」

「ありがとうございました」

そうしてドアノブを開けようとした看護師さんの手が止まり

「……悠さん、あなたはまだ、早すぎるとおもうわ……」

と言って病室を離れていった。

「……」

早すぎる、か……

年齢的な意味合いか、それとも病気の進行とかだろうか……

もう身体は全然動かないし、喋るのがやっと。

それに、過去のこともある。僕は死ぬことに関して、悩む理由なんて無いはずだ。

それなのに、なんでだろうな。

さっきの言葉が反駁して、脳から離れないんだ。それほどまでに、あの人たちとの出会いは特別なものだったのかもしれない。



1週間後____

横には小春さんと安奈さんがいた。

小春さんは既に泣いていた。

僕は今日この日、安楽死をする。

「点滴の準備が出来ました。点滴を開始するのは悠さんご本人の手でお願いします。

……悠さん、気持ちが変わったらいつでも言ってね」

看護師さんにそう言われる。

「はい。でも僕はもう決めました」

2人が僕の手を握る。

「悠くん……っ」

「小春さん……ありがとう」

「〜〜〜っ」

「マスター、友人ABの2人(あの人たち)の事と、小春さんのこと、お願いしますね……」

「うん、うん、ううううぅ……っ 悠くん……っ」

安奈さんも涙を流していた。

「悠くん……大好きだよ……」

小春さんはそう言って泣きながらも頭を撫でてくれた。

「僕も……小春さんもマスターも大好き」

涙が零れる、溢れる……

「じゃあ、そろそろ行くね……」

「「悠くん……っ」」

「ああっ……」


クイッ


そうして僕は、致死薬の入った点滴のクレンメを解放した。


(これで本当に、僕は……)


タッタッタッタッ

その時、足音が聞こえてきた。

ガチャッ

「失礼……しますっ……はぁっ……はぁっ……悠……さん……っ」

病室の扉を開けて入ってきたのは、屋上で出会った“あの娘”だった。

「あれ……?もしかして君あのときの……本当に来てくれたんだね……」

「悠さん!私はあなたのおかげで生きています……!」

「あはっ 約束……覚え……て くれてたんだ……でも僕……ウソ、ついちゃっ……た な……

君は、僕が……死ん でも 生 き…て……」

そうして、僕の意識は真っ白に染まった。



震えていた手が止まり、パタっとベットに倒れる。

「悠くん……っ 悠くん〜〜〜〜っ うああああああああああああああ」

「ううっ……悠くん……っ」

「………」

目の前の光景に涙が止まらなかった。



「どうしたの?そんなぼーっとしちゃって、ほら、ハンカチ」

「えっ?あっ……」

あのことを思い出すうちに、いつの間にか泣いて放心していたみたいだ。

あの人……悠さんの為に頑張って生きないと。

「……もしかして、あの時のことで?」

「……まぁね、そういう伯母さんだってあの時泣いてたじゃん」

「まぁそれはそうだけどね〜、それよりも遥奈ちゃん、大学生活頑張りなよ〜?」

「分かってるよ〜」

そうして私は大学の敷地内を去り、空を見上げる。

「見ててくださいね……悠さん」

その空は、見渡す限り蒼かった。



ミライガアルカラ アナタニデアイ 

アナタノミライヲカエタ


生きることは、それだけで尊い


−−−−−END−−−−−

描いてみて思ったのは、こういうのは文字にするのくっそムズいんやなって……

これの元にした動画も是非見てね

《登場人物》

基本的にオマージュキャラ→元にした人

ちなみに本編に出てないけど友人ABの2人はバリバリ本人ですサーセンm(_ _)m

長月(ながつき) (はるか)→オリキャラ(ちょっとだけ自分を投影してるかも)

大学1年生→故人。

両親が離婚後、母親が犯罪者になり、そのことと元々の体つき(男の娘)で非難やいじめに遭った。


満島(みつしま) 遥奈(はるな)→ハルルナ工房さん

中学3年生→大学受験合格(高校3年生)。

中学の頃、クラス中からいじめられていた。

屋上から飛び降り自殺をしようとしていたときに悠に出会う。


清田(きよた) 小春(こはる)→きよたプッチン先生

公務員。悠の母親代わりとなっており、心優しい性格をしている。プッチンプリンと友人ABの配信、ゲームが好き。


松原(まつばら) 安奈(あんな)→松原あーなさん

『バー 喜久松』を経営している女性で、遥奈の伯母にあたる。(松原は母親姓、満島は父親姓)

悠のことを気遣っている。友人ABを悠に教えた張本人であり、リスナーでもある。

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