これなら嫌われるのも時間の問題ね!
「あら、ここが汚れているじゃない。ちゃんと掃除をしなさい!!」
そう言って私は王城の廊下の掃除をしていたメイドを叱りつける。
やっぱり王子に嫌われるのも重要だけど、周りの人達に嫌われるのも重要だと思うんだよね。
本当に叱っている時は心が痛くなるんだけど…
「も、申し訳ございません!!今すぐに綺麗にします!!」
「分かったならいいのよ!」
さらに廊下を進んでいくとすれ違った男の身だしなみが整っていないことに気付いた。
「貴方身だしなみが整っていませんわ!!
ちゃんと服の汚れを隅々まで落としてから働きなさい!!」
「申し訳ありません!!すぐに落としてまいります!」
王城で働いているのに服に汚れをつけるなどあってはならないわ!
どうだ、結構な悪役令嬢っぷりじゃない…?
これなら皆から嫌われるのも時間の問題でしょ。
この調子ならヒロインをいじめなくてもすぐに婚約破棄されるかな〜、なるべくいじめたくないからこのまま順調にいってほしい!
―――――――――――
「エリスお嬢様この紅茶どうですか?エリスお嬢様が飲みたいと言っていた東大陸から仕入れたものですよ!」
私はティーカップの取っ手を指でつまみ、あごを上げずティーカップを傾け洗練された所作で飲んだ。こういうところはこの体が覚えているみたいだ。記憶が蘇っても体が覚えてないと意味ないからね。本当によかったわ…
「美味しくないわね、この紅茶要らないわ。もう東大陸で仕入れなくていいわよ」
わざわざ遠い東大陸から紅茶の茶葉を取り寄せろと言ったのに、飲んですぐに要らないというこの悪逆非道っぷり…我ながら最低ね…
もちろん紅茶は美味しかったわ、とてもね。
「そうですか。ではいつもの紅茶の茶葉に戻しますね!」
あれ…?なんか思ってたより全然大丈夫そうな反応だけど…心の中で舌打ちしてるのかな…
それともいつも優しかったからこれだけじゃ別におかしいと思わなかったのかな。
いや…いつも優しいんだったらよりおかしいと思うか…?
結局考えても分からなかったので考えることをやめてそのまま紅茶を楽しむことにした。
コンコンッ………
紅茶を楽しんでいると部屋の扉から叩く音が聞こえたのでマイに誰か確認しに行ってもらった。
「エリスお嬢様、ルカ王子ですよ。一緒に紅茶を飲もうと言っています」
「ルカか…とうとう来たわね…」
私は席から立ち上がり扉の前まで行った。
「入っていいわよ」
「エリス…!今日も可愛いね……僕が選んできたおすすめの茶葉があるからそれを飲んでほしいから今日は来たんだ」
「そうですか、ではこちらに座って下さい」
さっきまでティータイムを楽しんでいた席ではなくまだ使っていない綺麗な席に案内した。
私とルカが席に座ったので、マイはルカが持ってきた茶葉を使って紅茶を淹れている。
……やっぱりイケメンすぎるわね…眩しすぎて顔を直視出来ないわ。
このイケメンがあんなに…
私はこの前の事を思い出し体が震える…
ふぅ…落ち着くのよ私。怖い思いは我慢するのよ。そうしなきゃ今からやることは成功しないわ。
私はマイが淹れた紅茶のティーカップを持ち一口飲んだ…
「どうだ…!美味しいだろう…!!エリスなら気に入ると思ってたんだ!」
「いえ、美味しくないですね」
「……え?」
「全く美味しくないです。ルカ様はこんなのを私が気に入ると思われていたのですか?」
そう言って私はルカに紅茶を思いっきりかけ、ルカの頭や上半身は紅茶で濡れてしまった。
「あら、滑ってしまいましたわ。マイ、ルカ様が濡れてしまったのでお風呂に連れて行ってさしあげなさい」
「わ、分かりました…!」
そう言ってマイは王子をお風呂に連れていった。
マイに連れていかれている最中王子はびっくりしたような、何か考えているような険しい顔をしていた。
………作戦成功か…?
王子に紅茶をかけて私の印象を最悪にさせる作戦は。王子に紅茶をかけるなど無礼極まりないが流石に公爵令嬢をそれだけじゃ裁くことは出来ない。
周りの使用人だけでなく王子本人に悪役令嬢ムーブをしたことによって婚約破棄まで一歩、いや十歩くらい近付いたかな。
めっちゃ険しい顔してたしね。
あぁ…早く屋敷に帰ってアレンとゆったり過ごしたいわ。
使用人に対しては全然悪役令嬢じゃないですね。ただの注意ですし。王子に対してはきついですがw