第6話 『『『『『『『『『忘れ去られる』』』』』』』』』
{まだ行けそうじゃない?}
{いいから...戻れ...}
{わ...わかった...}
俺は図書館へと戻る。
”コツコツ”
俺が下水道に戻ると、先程までいた廊下から誰かの足音が聞こえてくる。行っていたらまずかっただろう。
「危ない危ない...」
俺は穴を這って戻って行く。服は汚れなかった。台車をどかして、図書館に戻った。台車の前にはサチエが立っていた。
「どうして響ばっかりの言うことを聞いたの?」
「なんか...切羽詰まったような言い方だったから...」
「じゃあ、響に負けたってこと?」
「違う!そうじゃないよ!」
「でもそうでしょう!響に負けたってことでしょう!」
「勝ち負けなんかないだろう!」
「うるさいわね!負けたやつは黙ってなさいよ!」
「なっ...そんなに言うまでもないじゃないか!」
「おーい!サチエ!修一!いるかぁ?」
奥からシュウジの声がする。もう時間の終了だ。
「戻るぞ...」
「わかってるわよ!負け犬!」
俺たちはシュウジのところに行って外に出る。そして、そのまま食堂に向かった。食堂に向かうまで俺たちは一言も喋らなかった。
「そんじゃ、ちゃんと食事しろよ?」
「あの...響は?」
「響は...俺も今から見に行く予定だ...俺の予想だが、数日は寝込むだろうな...」
「そうですか...」
シュウジの予想は、俺も一緒だ。もしかしたら、響は「時間逆行」をしたのかもしれない。だから、急に倒れたのだ。シュウジは鍵を閉めてどこかに行ってしまう。俺たちは静かに食事をした。
***
響はベッドの上で目を瞑っている。だが、寝ている訳ではない。
「時間逆行」を行った後、体が動かない硬直時間が出来てしまうのだ。その時間は約3日だ。あまりにも長いが、仲間の命が脅かされた時にはすぐに使うことにしている。
「おい...響!大丈夫か?」
救護室にシュウジが入ってくる。響は目を開ける。だが、口は開かない。最初は目も開かなかったのだ。
「大丈夫そう...じゃ...ないな...」
響はシュウジのことを見ている。
「また口が動かなくなったのか...しょうがないな...」
響はこれまでにも何度か、「時間逆行」を使ったことがある。だから、シュウジも硬直時間のことは知っている。
「それじゃ、明日明後日は無理そうかなぁ...」
響はシュウジを見る。ただただ見る。見続ける。
「そんじゃ、治ったら来るから!早く良くなれよ!」
響は一度瞬きをする。シュウジは救護室から出ていった。
***
俺たちは食事を終えたが、一言も喋らなかった。
「お前ら!食事を終えたか?」
「あぁ!終えたよ!」
「そうか!なら...部屋に戻るぞ!」
俺らは部屋に戻る。もちろん、2人共喋らなかった。
”ギィィ”
自分の牢の扉が開く。中には誰もいなかった。それが、当たり前なのだが一人の牢は静かで寂しかった。
「それじゃ、おやすみ!」
「おやすみなさい...」
俺はすることもないので、寝ることにした。
***
ここはどこだろうか───
ここは───
ここは、「時間逆行」でなかった事になった世界───
この世界があった事を証明するのは───
響の記憶の中だけ───
そして───
その世界も───
いつかは───
『『『『『『『『『忘れ去られる』』』』』』』』』
***
修一は上流に登っていく───
すると、一つの扉を見つける───
「開けてみるぞ...」
修一は扉を開ける───
「おい!そこで何をしているんだ!」
「まずい!バレた!逃げないと!」
”バンッ”
そしたら、監視員に見つかり撃たれた───
「しゅ...修一ィィィィィィ!!!!」
時間は逆行する───
世界を置き去りにして───
***
「階段も言ってみようぜ!」
「時間は大丈夫そうか?」
「そうだな...戻るか!」
「そうしてくれ...」
「やっぱり上流にも行くか!」
「いや、待て!」
修一は上流に向かう。だが、上流にある扉の向こうに監視員はいなかった。
「よかった...いなかった...」
響は呟く───
扉の向こうには階段がある。他に部屋はない───
「階段の上も気になるけど...今日は止めにするか!」
「そうだな...」
「おい!どこに行った!修一達は!」
「まずいわ!シュウジさんが来てるわ!」
「なっ...急がないと!」
「待って!まだでちゃ...」
サチエの声が響く───
だが、遅かった。修一は穴から顔を出していた───
穴の前には───
シュウジがいた───
「俺も仕事なんだ...ごめんな...」
”バンッ”
”バンッ”
「しゅ...修一ィィィィィィ!!!!」
時間は逆行する───
世界を置き去りにして───
***
そして、今の世界に至る───
***
「何かあったんだな...今日は何が起こった日だったか...」
シュウジは一人でブツブツと何かいいながら歩いている。
「今日は...あぁ...思い出した...」
シュウジは看守棟の中に入る。シュウジはこのトローン刑務所に10年勤めている。だが、出身地はどこか分かっていない。それどころか、この刑務所に勤める以前のことは何もわかっていない。
「今日は...初めて下水に行った日だな...」




