ツヨサ〜確かに君は〇〇かった〜
『蓮斗』
気が付けば、蓮斗は真っ白い世界にいた。
不思議と、先程目が覚めたばかりのはずなのに、それらしき感覚はなかった。
『蓮斗』
「…………」
振り返る。
そこには、蓮斗がいた。
否、蓮がいた。
「……悪い。結局、また蓮に任せて」
『構わないさ。俺は、その為に生まれたんだから』
「でも……」
『なぁ、蓮斗』
俯きそうになった蓮斗は、蓮の呼びかけに改めて顔を上げる。
『俺は、強かったか?』
「…………?」
『喧嘩じゃない、それ以外で、だ』
「それは……」
どう答えればいいのだろう、と蓮斗はくちごもった。
そもそも、強さとはなんのことなのか。それすらわからない。
『ははっ。悪い、少し意地悪だったな』
「…………悪い」
『何でお前が謝る。お前は、何も悪いことはしていない』
腕を組み、ケタケタと笑う蓮。
そしておもむろに蓮斗に近づき、その肩に手を置いた。
『その答えは、まだわからないさ。当然だ。俺もわからない。俺はお前だから、お前にもわからない』
「…………」
『けれどひとつ。ひとつだけ確かな事がある』
「……それは?」
『俺達は、守れたんだよ』
それだけ言って、蓮はスッと蓮斗から離れた。その瞬間、蓮斗の身体がぐらりと揺らぐ。
「…………?」
まるで、何か大切なモノが身体から抜けていってしまったような、そんな感覚を覚えながら、それでも蓮斗は足に力を込めて倒れるのを拒否した。
自分が目の前にいる手前、情けないところは見せられない。
だが、それでも力はどんどんと抜けていく。
『…………さて、そろそろ潮時みたいだぜ、『俺』。流石に、ちょいと傷が深かったみたいだな』
「…………死ぬのか、俺は……… 」
『あぁ。『俺』は死ぬ』
「……………そっか……でも、守れたんだろ?俺は……」
『あぁ』
「なら、いいか、な……」
死ぬ。
口にしても実感が沸かない。
そもそもここはどこなんだ、と今更ながらに考える蓮斗だったが、直ぐにどうでもよくなった。
少しずつぼやけていく思考。
夢心地の死。
まぁ、楽だからそれはそれでいいのかもしれない、と考えた蓮斗だったが、
『おい』
ゴッ、と鈍い音が頭に響く。
目をつぶる寸前、蓮斗は蓮に頭を殴られていた。
「な、何を……」
『何勝手に逝こうとしてやがる。無責任だな、お前』
お前は無茶苦茶だな、とツッコミたくなる蓮斗。
少しハッキリした頭を使い、口を開く。
「死ぬって言ったの、お前じゃねぇか……」
『あぁ』
サラっと答える蓮。少し殴りたくなった蓮斗だったが、そこまでの元気がない。
既に、蓮斗は膝をついて横になる寸前だった。
「なら……」
目の力を抜き、視界を細くしていく蓮斗。
そこで、今度はあごを軽く打ち抜かれた。ぐりん、と軽く蓮斗の首が回る。
『お前は死なせねぇよ。その必要がないからな』
「…………」
『人が生きるのを諦めていい時はな、誰からも必要とされなくなった時だけなんだよ。残念だけど、お前を必要とする人間はまだいる。お前が、身体張って守ったあいつがいる』
「……だからって、どうすんだよ……」
もうどうしようもないじゃないか、と悪態をつく蓮斗。
すると、蓮は。
『馬鹿だな。ここにいるじゃねぇか。誰からも必要とされていない奴が』
なっ、と声が出る。
そんな元気は無かったはずなのに、蓮斗は飛び起きた。
「……………あれ?」
飛び起きた蓮斗は、固まった。
いつの間にか、あの真っ白な世界じゃなくなっている。
そこは、何度かお世話になっている病院の、病室だった。
「レン………君………?」
一時的フリーズ状態が解けたのは、その声が聞こえたからだった。
幾度となく聞いていたその声を聞き違えるはずもない。
至極自然に、声が聞こえた方に顔を向ける。
そこには勿論、恋がいた。
「…………恋?」
「あ……あ…おき、た……レン…く……が……」
最初は信じられない、といった表情。それが、瞳の潤みが進むと共に、少しずつ崩れていく。
とりあえず、今しがた気付いた事を口にしてみる事にする。
「……まだ、約束は守れるみたいだな」
その瞬間、恋の瞳から感情の具現化したものがこぼれ落ちていた。
「……うわあぁぁあぁん!レン、君が、生きてる……!…っ、よかった、よかった…、っ、あぁああぁあ……!」
椅子を蹴飛ばし、恋は蓮斗に抱き着いた。遠慮無しの一撃に蓮斗はバランスを崩しながらも、しっかりと受け止める。
『俺達は、守れたんだよ』
「……あぁ。わかったよ、蓮」
抱きしめる、自分を必要としてくれる人の温かさを感じながら、蓮斗は呟く。
「今なら、わかる」
それが全てなのかどうかはわからないけれど、と心の中で付け足して、蓮斗は目をつぶった。
ツヨサ。
それは、自分を受け入れる為の力。
自分の中の黒い部分と向き合い、ぶつかり、受け入れて、許す為の力。
それが、見つけた答え。
それが、俺の見つけたツヨサ。
そして、今なら言える。
君は、強かった。
『いなくなってしまった』もう1人の自分に、しっかりと伝える。
そして、蓮斗は自分が生きている事をしっかりと感じながら、愛しい人を思い切り抱きしめた。
けどさ、蓮。
必要とされない人間なんて、俺はいないと思うんだ。
だから、早く帰ってこいよな。
俺も、お前なんだから。
知ってたか?
『蓮斗』は『蓮』がいないと『蓮斗』になれないんだぜ?