決着〜無機質な終わり〜
朦朧としてきた意識の中で、恋の目は蓮斗だけを捉えていた。いや、蓮斗にしかピントが合わなかった。
彼は今、ひとつのことに決着をつけようとしている。
その為に、戦っている。
たとえ、この身体が動いてくれたとしても、この戦いに手を出すことはしない、と恋は思っていた。
これは、蓮斗の戦い。
図らずも、蓮斗はこの出来事の中で自分自身と向き合うこととなった。
知っていたけれど、知らない振りをしていた。
見えていたけれど、見えないことにしていた。
そんなことすら出来なくなる程に、蓮斗は追い詰められた。
それが果たして、良いことだったのか、悪いことだったのかは、まだわからない。
しかし、わからないからこそ、決着がつくまで、この戦いには誰の手出しも不要だった。
そう、だった。
しかし、恋は次の瞬間叫んでいた。
何か、光るモノが見えた、その瞬間に。
「…………っ」
ちっ、と舌打ちをする蓮。
それは、別に負けているからではない。
強いていうなら、不快感。
殴る感触、蹴る感覚、響く鈍音、返ってくる鈍痛、全てが不快に感じていた。
前はこんなこと無かったのに、と心の中で呟く蓮。どうも、記憶喪失から復帰してからおかしいと思っていたのは杞憂ではないらしい、とさらに思う。
(俺はこの為に生まれたのに……。その俺が、暴力を不快に感じるなんて)
目の前に立っている、満身創痍な南貴兄を見つめる。
本来の蓮ならば、ここで起こる感情など持ち合わせていない。相手が自分に危害を与える余裕が有る限りは、冷徹に潰しにかかる。
(だっていうのに、何なんだ、この気持ち……これじゃ、まるで……)
頭をぶんと振り、考えるのを止める蓮。そして、1歩詰め寄る。
「ダメェ!!」
「?」
突如、倉庫に響いた声。
そして、蓮の身体にドン、と衝撃が伝わってきた。
あれ?と反射的に考える。
自分は1度、これと同じ衝撃を感じたことがある。
「……あちゃ〜……」
参った、といった風に頭を軽く叩き、天井を仰ぐ。あえて下は見ない。
そして、そろそろやってくるであろう痛みを感じる前に、蓮は。
この一瞬だけ、以前の『蓮』に戻った。
「救えないよ、アンタ」
直後、南貴兄の身体は逆前屈を強要された。背骨が、本来の可動域をはるかに越えた運動に無機質な声の悲鳴を上げる。
そして、背骨の断末魔が響いたその瞬間、南貴兄の身体は地面に崩れ落ちた。
「……ひとつも声をあげないなんて、な……いかれてるぜ……」
どすんと尻餅をつく蓮。そこで初めて、自分の腹部を見た。そこには、ナイフの柄が役目を終えて鎮座していた。
抜くこともせず、倒れ込む。
「……ハッ……。……わかんねぇ、なぁ……。なぁ、蓮斗……。…………………『ツヨサ』って、……なんなんだ、ろうなぁ……」
そのまま蓮は、ゆっくりと目を閉じた。
次回で最終話となります。
今まで読んでくれた方々、ありがとうございました。
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