再返―後編―〜ああ、結局は。〜
久しぶりです。
すいません。
がんばります。
最近忙しくてなかなかかけなかったんです……!
しかし!
終わらせられるまで決してやめません!
どうか見捨てないで……(泣)
では。
(そういや、授業すっぽかしてきちゃったな)
レンガ作りの壁を見上げながら、場違いな事を考える蓮斗。
レンガの継ぎ目に指を当て、ザラザラとした感触を感じながらなぞっていく。これがあみだくじならば、当たりはどれになるのだろうか。
「さて、と」
指についた土埃をふっと息で飛ばし、威吹を横目で見る。
長い髪は身体に纏わり付いていて、しかし本人は気にしない。表情はどこまでも無表情で、考えを読み取ることは叶わない。
そんな威吹に声をかけようと思った蓮斗だが、声を出す寸前で思い止まる。今は、人の事を気にしている場合ではない、と内なる自分に止められたから。
無骨な扉に手をかけて、ゆっくりと押し開ける。外からの光で、舞い上がっていた土埃が存在をここぞとばかりに主張していた。
「……南貴?」
中に足を踏み入れる。そこに、確かに南貴はいた。
おかしい、と蓮斗は思った。
そう。あきらかにおかしい。
「レン君……!」
恋の声。そこには恋もいた。
これはいい。
南貴の姿も確認出来る。
これもいい。
南貴は、恋の肩を借りて立っている。
ここからおかしい。
息絶え絶えな南貴は、蓮斗の姿、そして威吹を見て、悲しいくらいに頼りなく笑う。
これは絶対に、おかしい。
「……なんだよ、これ?」
思わず誰かに聞いてしまう蓮斗。
その横で、こっちが聞きたいといわんばかりに首を傾げているのは威吹だ。
南貴が高校に攻めてきて、恋を助けようとした蓮斗に記憶が戻り、隙をつかれて恋が誘拐されて。
レンガ倉庫に来て、扉を開ければ予想通りに2人がいて、しかし、恋を誘拐したはずの南貴は、なぜか虫の息で恋の肩を借りている。
「…………」
一体、何回予想外をくらわなければならないのか、と蓮斗は嘆く。勿論、心の中で、だが。
とにかく南貴に話を聞かなければ、との結論に至り、蓮斗は2人に駆け寄った。威吹もそれに続く。
「南貴、大丈夫か?」
一応の心配。これから決着をつけようとしていた相手に何を、とは考えないでおいた蓮斗。
南貴はうなだれていた顔を上げて、何とも弱々しい笑顔をみせる。
(あれ?)
そこで、またしても蓮斗は違和感を覚えた。
南貴の笑顔が、懐かしく思えている。
(いや…………いやいや…………)
頭を振って否定する。
記憶喪失だった時を差し引いても、そこまで懐かしく感じるはずがない。
だが、そんな蓮斗の横では威吹が目を見開いていた。
「南貴…………?」
信じられないといった表情の威吹。
「南貴……いや、けど、そんな…………なんで、こんな……」
懐かしいの。と威吹は続けていた。
それを聞いた蓮斗は、威吹の方を見る。
「お前も、か?」
「………………」
コクン、と肯定。
それを見てから、蓮斗はもう一度南貴の顔を見た。そして、その懐かしさがどこからきているのか、考える。
もしかしたら、自分はとんでもない勘違いをしているのではないか。
そんな想いで、必死に記憶を手繰り寄せる。
そこで、恋と南貴は唐突にバランスを崩した。
蓮斗は恋を、威吹は南貴をとっさに支える。見れば、恋もフラフラだった。今にも倒れそうな、そんな状況で、身体には痣が見え隠れしている。
そういえば、前にもこんな状況になった恋を見た気がする、と蓮斗は考え、そして、
「!!」
南貴に対する懐かしさがどこからきているのかが、判明した。
「宿泊研修……そうだ、あの日、あの時から南貴のその顔、見てない」
そう言って、南貴を見る。
南貴は、蓮斗を見て、かすれた声を出している。
何だ?と耳を寄せる蓮斗。
「……あに………き…、が……………に………げ…………」
それが最後の力だったのか、南貴の身体はがくりと力を失ってしまう。
「…………なるほど」
蓮斗は南貴の背中を叩き、今まで疑っていたことを心の中で謝った。そして、
「つまりは、俺達全員あんたに踊らされていた、と。そういうことかい?」
影で見ているはずの黒幕に、話し掛ける。
「威吹のことも、過去の怨恨も、俺の腹を刺して記憶喪失にしてくれたのも、学校に攻めてきたのも恋を誘拐したのも全部!」
やがて、影は人影を生み出して、人影は光を浴びて人になる。
その人物こそが、黒幕。
彼は、悪びれることもなく、
「そうだけど?」
言い切った。
蓮斗は恋を抱き抱えたままその人物を睨みつける。
「…………!?」
威吹はその人物の姿を見て、目を見開くことで驚きを表現していた。
なぜなら、現れたその人物と、今自分が抱き寄せ、支えている人物とが、全く同じ見た目をしているから。
「ちなみに、一卵性だから。そこんとこよろしく」
見た目南貴の黒幕は、どこまでも軽く、空気を読まない発言をしていた。