再返―前編―〜舞台の準備が始まりを告げて〜
後3〜4回の更新で完結することが予想されます。
今まで読んでくださった方々に感謝の意を。願わくば最後までお付き合い頂けると幸いです。
でわ。
二人の睨み合いは、あまり長くは続かなかった。
突然、南貴がケタケタと笑い出していたからだ。
その姿を見ていられなくて、蓮斗は目を逸らした。しかし南貴は、上半身だけを曲げて蓮斗の視界に入り込む。
「どうしたよ、蓮斗?感動の再会なのに、つれないんじゃねぇの?」
「何が……」
苦い表情をする蓮斗に、南貴はその表情を更に歪ませた。そして、おもむろに懐から『あるモノ』を取り出す。それを、ゆっくりと蓮斗の『傷痕』になぞった。
それは、ナイフだった。
ゾクリとした感触に、蓮斗は鳥肌を隠しきれない。
「それは……」
「あぁ、そうだ。これが、お前の中に入ったんだぜ?それも、根本までズップリとなぁ……」
「……っ!」
反射的に蓮斗は南貴から半歩引いていた。
あれれぇ?と首を傾げる南貴に、蓮斗は得体の知れない不安を覚える。
言うなれば、危うかった。
そして、今度は逆に南貴から目を外せなくなっていた。
そうしてまた睨み合って、どうしようか、と考え始めた時、またしてもケタケタと笑いはじめる南貴。しかし、今回のそれは、まるで愚か者をあざ笑うかのような、そんな笑い方だ。
何だ……?と思い、反射的に振り返った時には、もう遅かった。
何もない。誰も、いない。
そこにいるはずの、恋もいない。
「ちょ〜っと、遅かったなぁ?」
けたたましいエンジン音が蓮斗の耳に直撃する。
再度振り返ったその瞬間、蓮斗の目に入ったのは黒い楕円。
それが迫りくる靴の爪先であると理解出来たとして、それを避けることは叶うはずもない。
眉間に直撃した南貴の蹴りは、蓮斗の顔面を楽に跳ね上げた。
「決着つけようぜぇ?蓮斗。同じように、同じ場所でなぁ……」
走り去るバイクの歪んだフォルム。
走りじゃバイクを追うことは出来ない、と走りだそうとする足を止めようと努力する。
心と身体の不一致。
それは、とても苦しく、辛く、むず痒く。
それが南貴への怒りに変わるのは、流れる川よりスムーズだった。
「……南、貴ィ……!!」
漏れでた憤怒の塊は、足止めをしようと試みた男達に死んだふりを強要させた。




