災会〜全てを歪め合った2人〜
恋をゆっくりと地面に寝かせる。
いつの間にか、ここにいた女子生徒は逃げていたらしい。それならそれで好都合だ、と蓮斗は思った。
そして、目をつぶったままの恋に視線を戻す。
「ごめんな、恋。少し、遅かったみたいだな……」
恋の前髪を撫で、下唇を噛み締める。
「けど、もう大丈夫だから。だから、ここで休んでてくれな?」
指一本触れさせないから、と、沸き立つ様々な思いを抑え蓮斗は立ち上がる。
今になって、いかに自分が情けなかったのかが理解できた。
嫌な事全てをもう一人の自分に押し付けて。
一時でも、あのままでいいかと思ってしまっていた自分がくだらなかった。
『何を今更』
そんな声が、聴こえた気がした。
前を見れば、恋を殴りつけた男が鉄の棒を振りかぶっていた。
それを見て、グラリ、と蓮斗の身体が揺らぐ。
さながらゾンビのような、ふらついた足取りに一瞬、ほんの一瞬だけ男が面食らった。慌てて振り下ろされた鉄の棒は、しかし虚しく空を切っていた。
「覚悟は出来てるんだろうな」
ゾクリ、と男に鳥肌が立つ。
蓮斗は、男の背中に自分の背中を預けてそう聞いていた。
しかし、それは形だけの問い。
故に、返答など蓮斗には必要なかった。
蓮斗は背中を預けたまま手を後ろに伸ばし、男の顎をしっかりと掴んで、そして、
「始めようぜ、南貴。いるんだろう?すぐいくから、待ってろ」
男がエビ反りになるのも構わず、思い切り背負い投げた。
「げふっ!!」
投げられた男を受け止めるような、優しい人間などそこにいるはずなく、男は盛大に地面に胴体から着地した。しかし慣性の法則は男の身体を解放せず、更に二転三転、男の身体を弄ぶ。
全身擦り傷だらけ、間違いなく首をおかしくしたであろう男。
その顔を踏み付ける別の男がいた。
「レ、ン、トォ……!」
「あ、い、がぁっ」
グキッ
「景!」
「先生!皆は?」
蓮斗が男を投げ飛ばした時、階段を片足で器用に降りていた景を秋奈が見つけていた。
秋奈は景の膝を見て顔をしかめる。
「栗実と威吹は保健室だ。恋はあの声が聴こえたと思ったら飛び出していったよ」
「そう、ですか。蓮斗はっ、て先生!?」
質問に答えるや否や、秋奈は景を軽々と抱き上げ、更には走り出していた。
いきなりのことに首を右往左往させる景。さすがに、同性にお姫様抱っこされるとは思っていなかったのだ。
わかりやすい驚きを見せる景を保健室の前で降ろし、秋奈は、
「まずはその膝をなんとかしろ。というより、保健室から出るな。なにがあるかわからない」
力強く走り去っていった。
「……何者?」
残された景は、素直に呟いた。
「うあぁあぁぁ!!」
秋奈は自分の目を疑った。
おそらく恋はここに来ているだろう、との考えで玄関に来てみれば、その恋は地面に倒れていて、代わりに蓮斗が咆哮と共に戦っているではないか。
(一服する暇もない、か)
少し疲れた表情で、秋奈はゆっくりと歩き出した。
「ふん。こんなもんかよ」
首を鳴らし、つまらなそうに呟く蓮斗。
三十人はいたであろう男達は、もはや片手で数えられる程しか立っていない。残った男達にしてみても、もはや化け物としか思えない蓮斗に喧嘩を売る奴はいない。
そんな奴らを無視して、蓮斗はある一人の男に近付いていく。
そして、互いに顔を歪め合った。
片方は歯を食いしばり、
片方は裂けたような口で歪んだ笑みをあらわにしていた。
久々の連続投稿……