電流〜走る痛みが道標〜
蓮斗は廊下をただひたすら走っていた。
正直な話、保健室から飛び出した時、すでにそこには誰もいなかった。なので蓮斗は当てもなく、ただ本当に走っているだけなのだが―――。
走り続ける蓮斗に、電流のような頭痛が走った。
(痛ゥッ……!また……!)
思わず顔をしかめるが、走るのをやめなければいけない程ではない。
人影に注意を向けながら、蓮斗は考えを巡らせる。
(さっきもこの痛み、あったよな……。何だ?何の意味がある……)
数秒だけ、走る事よりも考える方に意識が向いてしまう。
目の前には曲がり角。
起こりうる事といえば、当然、
「あ」
「え?」
ドン!と何かにぶつかり、予想外の衝撃を受けた蓮斗は尻餅をついてしまう。一体何が、と思い視線を向ければ、そこには蓮斗と同じように尻餅をついている桐歩がいた。
「いてて……全く、ちゃんと前見ろ…って、蓮斗じゃないか」
そう言った桐歩は、なぜか慌てたように後ろを振り返る。そして、誰もいない廊下を数秒見つめたかと思うと、あぁ〜、と気まずそうな声を出した。
「何だよ、その反応」
「あ、いやな?もうちょっと引き止めておけばよかったかな、と」
苦笑いをしながらそう言う桐歩。
その言葉を聞いて、蓮斗はすぐに理解した。
「景は?景はどこにいった」
「そうだな、この先に走ってったから、体育館か、または展望台か……って、オイ蓮斗!?」
全てを聞く前に、蓮斗は駆け出していた。
例の電流が頭に走る。
だんだんと、蓮斗はこの頭痛が何を意味しているかがわかってきていた。
向かう先は、展望台。
自分の知らない記憶が辿る道。螺旋階段を駆け上がり、梯子の前にたどり着く。
もう、急ぐ必要はない。
ただゆっくりと、梯子を昇りはじめる。
そこまで長くはない梯子は、あっという間に終わりが見えた。
そして。そこには。
あの日と同じ、景がいた。