和解〜繋がり始めたその絆〜
更新が遅くなっていることをお詫びします……。続きを楽しみにしてくれている方には、すいませんの一言です。(果たしていてくれているのかが逆に心配ですが)
頑張りますので、指摘があれば遠慮なくお願いします!
保健室。
注がれたコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
そんな中向かい合う、合計5人の人間。
「…………」
蓮斗は正直、いいようのない息苦しさを感じていた。この雰囲気は、明らかに和やかなお茶会のモノではない。
蓮斗は周りに気付かれないように、慎重に視線だけを動かした。
まず目に入ったのは栗実。彼女も蓮斗と同じなのか、とてもじゃないが居心地が良さそうには見えなかった。
次に見たのは威吹。
……静止していた。
あごを軽く上げ、目はつぶったまま動かない。おとなしくしているというよりは、開き直ってふんぞりかえっている、といった方が正しいような気がする。
そして、最後に1人……というよりは、2人。真正面から睨み合い、この雰囲気を作り出している張本人達を見る。
「…………」
いつもと変わりないように見えるが、実際にはとんでもない圧力を放っている恋と、正に『泣く子も黙る』眼光で恋を睨みつけている秋奈。その意識が自分に向けられていない事が分かっていても、自然と心拍数が上がってしまう蓮斗は、ため息すらつけずにただ時間が過ぎていくのを感じていた。
「……何だ、用があるなら早く言え」
脅すような低い声。コーヒーの湯気に混じり、煙草の煙が吐き出された。それだけで、蓮斗と栗実はその場から逃げ出したくなる。
しかし恋はそれにも臆さず、力強い声で言った。
「レン君の記憶を、取り戻します。これは、レン君が望んだ事です。だから、私はそれに協力します」
ジリッ、と音がした。
秋奈の煙草が、2秒と経たずに灰と化す。
(うわぁぁぁーっ!)
心の中で蓮斗は叫んだ。
だが、
「……好きにするがいいさ」
秋奈は、反対しなかった。
テーブルの上に落ちた灰を携帯灰皿へと入れ、ゆっくりと席を立つ。
「しかし、それを伝えるのは他にいるんじゃないか?とだけ言っておこう」
顔を上げる蓮斗。
秋奈の視線は、蓮斗へと注がれていた。そこで蓮斗は、ここにいない人物を思い出す。
「恋。景は?」
「ゴメン。私が威吹を連れに教室に行った時にいなかったから……」
「……そっか」
ピリッ、と蓮斗の頭に電力の様な痛みが走る。何だ?と疑問を感じた蓮斗を見て、秋奈は、
「全員が納得してから私の所へ来い。出来る限りの事はしよう。……ん?どうした、恋?」
先程から不思議そうな視線を秋奈に送っていた恋を見て、秋奈は首を傾げた。
「あ、いえ……。ただ、何でいきなり?」
そんな恋の言葉に、秋奈は保健室に来てから始めて表情を緩めた。そして、コーヒーカップを手に取り、熱さなど微塵も感じさせない飲みっぷりで中身を飲み干すと、
「忘れたか?私は蓮斗のカウンセラーだぞ?患者が記憶を取り戻すと決めたなら、私は何も言えないし、言わないよ。……それに、私も大人気なかったからな」
目を細め、どこか遠くを見るような目で秋奈は窓の外を眺める。
その視線を栗実と恋に移すと、2人の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「お前らを、信じる事にしたのさ」
いきなり話の輪に入れられ驚く栗実だが、秋奈から先程までの圧力が無くなっている事を知ると、溜まっていた息をゆっくりと吐いて身体の力を抜いた。以前の彼女なら、『爆発』していてもおかしくなかったかもしれない。
そんな光景を覗く影がいた。
それにいち早く気が付いたのは、今まで微動だにしなかった威吹だった。
その影は、保健室の扉を少しだけ開け、その隙間からこちらを覗いている。
気付きはした威吹だったが、リアクションはしない。
ただ、目を開いて蓮斗を見た。
「……?」
その視線に気づいた蓮斗。
とりあえずその開かれた目を見返すと、その目が左に動く。つられて左に視線をずらすと、半開きになっている保健室の扉が蓮斗の目に入った。
そこには。
「景……?」
半信半疑で名を読んでみる。
影は、慌てた様子でその場から消えた。
「景!」
蓮斗は思わず立ち上がり、影を追い掛けようと走り始めた。