記憶〜取り戻す覚悟を決めて〜
「……ん……」
朝のけだるさ。それを感じつつ蓮斗は目を覚ました。ムクリと身体を起こし、瞼を擦って朝の眩しさをこらえて目を開いた。
「……あれ?」
そこは、自分のベッドの上であることに気がついて、寝ぼけた頭で違和感を覚える。
昨日自分のベッドに入った覚えが、無い。
「…………?」
というよりも、なんだか嫌な夢を見た気がして気分が悪かった。
自分の覚えがないことで、男達に危うく殺されるかもしれなかった夢なんて、気分がいいはずもない。
頭を振り、そんな気分を払拭する。
切り替える為に大きく伸びをしていたその時に、これまた予想外の事が起きた。
「レ〜ン君っ!おはようっ!」
「うわぁっ!」
恋が、扉を勢いよく開けて蓮斗に飛び付いていた。身体が伸びていた所への一撃に、蓮斗はベッドに逆戻りである。
「恋〜……しつこいぞ、お前……?」
呆れた蓮斗は、言いかけて不思議に思った。
――何故、今自分は『しつこい』なんて言ったんだ?
「……どうしたの?」
「あ、いや……」
怪訝そうな顔をする恋に、蓮斗は顔を背けた。それは、恥ずかしいからではない。
「…………前にも…。…っ!」
蓮斗を襲う、激しい頭痛と既視感。
覚えが無いのに、身体がこの感覚を覚えている。
――これじゃ、まるでさっきの夢みたいじゃないか……。
「……まさか……」
ハッとする。蓮斗の頭の中に、ある1つの考えが浮かんでしまった。
「さっきの夢は……夢、じゃ……」
更に激しくなる頭痛。頭に異物をねじ込まれているような痛みの中で、蓮斗は確かにその声を聞いた。
『所詮、他人の子か』
突如、思い切り頭を殴られたような衝撃が蓮斗に襲い掛かった。
「……っは……」
蓮斗は確信した。確かに、自分は記憶を失っていると。
まだ、何を忘れているのかは思い出せない。しかし、絶対に思い出さなければいけない、と直感が告げていた。
「………ところで」
頭の中が1段落したところで、蓮斗は先程から身体にしがみついている人物に視線を向ける。
「いつまでそうしてんの?」
「…………すぅ……」
いつの間にか、恋は眠ってしまっていた。