韋駄天―後編―〜突然の発現〜
「…っ、この女ぁ!」
「危ないっ!」
声を上げた男を筆頭に、3人の男が威吹に襲い掛かる。
思わず声を上げてしまう蓮斗の前に、その特攻服を翻して威吹が着地した。威吹は一息で自分がいた場所から蓮斗がいる金網の場所へと跳んだのだ。
「ぐぁっ!?」
目標を無くした男達の攻撃は、互いへと襲い掛かった。狭い空間で人数ばかり多いのが仇となったか、同士討ちが男達の数を減らしていく。
少しずつ、道が開けてきたのを見て、蓮斗はいつでも走り出せるように力を込める。と、その時。
「オラァ!」
1人の男が真横から蓮斗に殴り掛かる。威吹からは、蓮斗の身体が死角となって見えていない。
(……殴られる!)
そう考えると同時に、蓮斗はキュッと目をつぶる。歯を食いしばり、すぐにくるであろう痛みに覚悟を決める。しかし、力を込めていた足が、男に向かって1歩踏み出していた。
そして、そのまま。
――男の鳩尾に、前蹴りを叩き込んだ。
「!?」
最初に驚いたのは、威吹。その後に男。
予想外の攻撃に、全く受け身をとらなかった男は後ろに吹き飛んだ。そのまま、2転3転して壁に身体を打ち付ける。
「威吹」
「……。……えっ?」
「行くぞ」
蓮斗は威吹の手を掴み、走り出す。今の蓮斗の一撃は、男達を固まらせるのには充分だった。
「蓮斗……?」
手を引かれながら走る威吹は、彼の名を小さく呼んだ。すると、蓮斗は立ち止まり、そして首を横に振った。
「いいや、違う。俺は『蓮』だ」
「……『蓮』!?」
「助かったよ。蓮斗じゃあどうにも出来なかったから……」
「…………」
頭をかきながら、蓮は威吹の手を離す。
「じゃあな。次にいつ会うかはわからないけど」
威吹の理解が追いつく前に、蓮斗は威吹の頭をポンと撫でるように叩いてその場から走り去ってしまった。
威吹が呆気にとられていると、後ろから追い掛けてきた男達の声が聞こえてき始める。とにかく、威吹もそこから逃げることにした。