認識〜無意識〜
病室の窓から涼やかな風と共に、1枚の木の葉が入って来た。ふわふわと宙を舞い、ゆっくりと蓮斗の手の平に落ち着く。
恋は、それをただ見ていた。半ばうっとりとして、蓮斗の姿を見つめている。
「……レン、君」
「……?」
蓮斗は、恋の漏らした声にほんの少し首を傾げる。そしてまた外に視線を向けた。
「ど……どういうこと?」
「言葉通りなんだけどな。『蓮斗』は記憶喪失だが、俺、『蓮』は今まで通り存在している。俺と蓮斗は別人格だけども、別人な訳じゃないから記憶は共有しているんだ」
「…………?」
わかりやすく理解していない表情をする恋。
「まぁ、簡単に言っちゃえば蓮斗は忘れていても俺は覚えているってことだ」
「ねぇ、レン君」
「?」
今度はしっかりと呼びかけて、蓮斗を自分の方に向かせる。その表情は、今までと同じようで、やはり何かが欠けていた。
「何?」
「…………」
じっ……と蓮斗の顔を見つめる。年相応の、無邪気でもなく、それでいて大人な訳でもない顔立ち。
恋は、ゆっくりと蓮斗に手を伸ばし……。
――その爪を、目に向かって突き出した。
「!!」
瞬間、蓮斗は当然反射的に目をつぶっていた。
ガシャン、と何かが倒れる音に、恐る恐る目を開く。
「イタタ……」
そこには、尻餅をついた恋の姿。椅子が横倒しになっているのを見て、先程の音は椅子の音だと蓮斗は理解する。
しかし、蓮斗自身何が起きたのかわかっていなかった。
恋が目潰しを繰り出した瞬間、蓮斗が目をつぶったのを確かに恋は見た。
――入る。
そう思った瞬間、尻餅をついていたのは恋だった。
それが、ベッドから下ろしていた蓮斗の足による足払いだと気付くのと、痛みが来るのはほぼ同時。立ち上がりながら、恋は『蓮』の言葉を思い出す。
『蓮斗が失ったのは、俺 『蓮』に対しての認識だ。言っちまえば、俺の存在を認知出来ていないだけで、俺自体が消えた訳じゃない。記憶喪失はその副産物だな。だから、多分蓮斗に危機が迫れば無意識に自分を守って反撃が飛んでいくと思う』
「……なるほど」
その真偽を確かめるために、わざとあからさまに攻撃を仕掛けてみた恋だったが。
「もしかしたら、案外簡単に記憶を戻せるかも……」
1人呟く恋の横で、蓮斗は訳がわからず目をぱちくりさせていた。