想定外〜蓮斗の半身『蓮』〜
「…………」
蓮斗は、病室で1人自分の身体に巻かれた包帯を見つめていた。
医師から告げられた、身体に深く刻まれた刺し傷の存在、更には記憶喪失という信じ難い言葉。
その2つは、蓮斗を混乱させるには充分だった。
「…………」
表情には出ないものの、頭の中では目まぐるしく色々な考えが巡っていた。
なぜ、自分は刺されたのか。
刺される様なことを、自分はしたのだろうか。
無くした記憶は、どんなものだったのか。
「……駄目だ、わからない」
思わず出てしまう弱音。
蓮斗はベッドにバタリと倒れ込み、天井を見つめた。何か他に気が紛れる事は無いかと思案する。
「そういえば……」
ふと、病室にいた皆の事を思い出す。
「秋奈先生に、景に、栗実さん……それに、あの2人」
ぱっと見た時は、違和感を感じなかった事を思い出す。
「……れん、だっけ」
一瞬だけ、記憶が戻った様な感覚があったのを蓮斗は覚えている。
しかし、気を失う寸前に、蓮斗は自分が自分じゃないような、そんな感じがしたことも覚えていた。
「あれは……一体……?」
自分じゃないけど、自分。
自分だけれど、自分じゃない。
矛盾した感覚を身体は当たり前のように受け入れていた。
「痛っ…。…………寝よう」
蓮斗は、それまで考えていた事を全てシャットダウンした。頭が割れる様な痛みが、一瞬だけ蓮斗を苦しめた。
「レン君……?」
恋は、静かに病室の扉を開ける。少しだけ開いた扉の隙間から、蓮斗の姿が伺えた。
蓮斗が寝ている事がわかると、そのままゆっくりと中に入り扉を閉める。
「何の用だ?」
「……っ!!」
背後からいきなり掛けられた声に、恋は心底驚いた。すぐさま振り返ると、そこには寝ているはずの蓮斗が、身体を起こしてこちらを見つめていた。
「あは……起きてたんだ」
「いや、寝てた」
驚いたせいか、ぎこちない動きで蓮斗の元に向かう恋。椅子を出して、蓮斗に身体を向けるように座る。
「……どう?」
蓮斗の身体を下から上へ、ゆっくりと眺めてから恋はそう聞いた。
「別に……全く、南貴の野郎しっかりとナイフの根元までねじ込みやがった」
「あ、うん。ごめん……」
「なんでお前が謝る」
「うん………え?」
恋は、気の抜けた声を出して蓮斗を見つめた。
蓮斗は記憶喪失で、恋の事は忘れているはずなのに、何故何もなかったように会話が成立しているのだろう、と。
その視線に気が付いた蓮斗は、やれやれと言わんばかりに首を振った。
「き、記憶が戻ったの……?」
期待の眼差しを、蓮斗に向ける恋だったが、蓮斗は首を横に振っていた。
「『蓮斗』は、記憶喪失のままだ……って言えば、わかるか?」
その言葉を聞いて、恋は一瞬止まる。その間すら面倒なのか、恋が聞き返す前に、蓮斗は続きを口にした。
「まぁ、大体わかってると思うが……俺は蓮斗であって、蓮斗じゃない。……『蓮斗』と対に当たる人格…『蓮』だ……って、聞いてるか?」
その後、しばらく恋は止まったまま動かなかった。