奔走―中編―〜抱きまくらが現れた〜
街灯の明かりが際立つ夜。蓮斗は1人突っ走っていた。
自分の心に矛盾を抱えながら、それでも彼女のために走り続けていた。
何の為?
――わからない。
彼女の為?
――わからない。
平穏を求めるならば、とってはいけない行動をしている。
それなのに、蓮斗は走り続ける。
矛盾した行動の中で、だけど一つだけわかっている自分の気持ち。
それだけにしたがって、蓮斗は走り続けた。
「はぁ…はぁ…」
「どうした?もう鬼ごっこはおしまいか?」
暗い路地裏、街灯の光りも届かない、月明かりだけの暗闇の世界。
そこで、恋は追い詰められた。
(相手は6人…勝てない程じゃないけど…)
走り回って切れた息を整えるため、恋は距離をとるために一歩下がる。と、背中に冷たいコンクリートの感触が。
つまりは、本当に追い詰められた。
「さて、暴れられる前に、静かにさせとかなくちゃなぁ!」
「!!きゃっ!」
一歩前に出た男――南貴から振り下ろされる容赦ない一撃。顔面にヒットする。
それを皮切りに、残りの男達も攻撃に転ずる。
(……ダメ…手を…出し、たら……)
2人の男が、それぞれ両手、両足を拘束する。これで恋には抵抗すら出来ない。
――ように見えた。
次々とやってくる痛みに、思わず目を閉じる恋。当然の事ながら、それで攻撃の雨が止む訳ではない。
掴まれている手足が汗でべとべとして気持ちが悪い。だが、そのおかげで、思い切り足を振り抜くように動かせば滑って抜けれそうだった。
しかし、恋はそれをしなかった。
「ふぅ…ふぅ…そろそろ、負けを認めたらどうだい?恋ちゃん」
肩で息をしながら、南貴はそう言った。だが、恋は。
「……べぇ、だ。負けてなんか…ないし…」
舌を出した拍子に、恋の口から真っ赤な血が溢れ出す。言葉を発するたびに、彼女の口から下は赤く染まった。
「…っこの女」
足を拘束していた男が立ち上がり、その腕を振り上げる。
瞬間、グシャリ、と鈍い音が響いた。
反射的に目を閉じた恋には、何が起きたかわからなかった。
ゆっくりと目を開くと、すぐ前に彼の背中があった。
朝には、自分が抱きまくらがわりにしていた身体が、今は彼女を守る盾となって現れた。