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存在意義―前編―〜エゴ〜

病院から出る4人。


威吹はふらりと離れていった。


栗実もまた、思い詰めた顔で歩きだした。


それに続いて、恋も歩きだそうとした、その時。


「待て」


秋奈に呼び止められていた。


「話がある」

「どうしても、聞かなきゃだめですか」

「……ああ。どうしても、だ。とても、大事な話だ」


振り返らずにいた恋だが、秋奈の声色で真剣さを感じ取り、踵を返して秋奈と共に歩きだす。

恋には、秋奈が何を言いたいのか、大体予想はついてしまっていた。


「乗れ」


秋奈の車の前、恋は運転席からの秋奈の言葉に従い、助手席に乗る。シートベルトをした事を確認した秋奈は、ゆっくりと車を発進させた。










車は、平坦なコンクリートの道をひた走る。どこかに向かっているわけではない。ただ、気の向くままに走っているだけだ。これが普通の状況なら、気楽なドライブになっているのだろうが、生憎そんな雰囲気にはなりそうもなかった。


「話って……なんですか」


先に口を開いたのは、恋の方だった。


「ああ。……だが、大体予想はついているのだろう?」

「……レン君との、これからですよね」


車のスピードが少しばかり落ちる。秋奈は、くわえていた煙草を灰皿に納めた。


「なら、これから私が言うこともわかるだろう」

「…………」

「恋。蓮斗には、金輪際近付くな。余りにも悪過ぎる。今の状況も、蓮斗の状態も、お前の心境も」「嫌です」


間髪入れず、恋は即答していた。予想外だったのか、運転中にも関わらずに一瞬恋を見てしまう。


「わかっていない、お前は」

「何が、ですか」


急ブレーキ。車は、通り過ぎるはずのパーキングエリアに進入した。秋奈も、運転しながらでは話しも纏まらないと思ったのだろう。


「恋。嫌とか良いとかそんな問題じゃない。いいか、これは命令だ」

「…………」


エンジンを切り、秋奈は恋に向かって言い放つ。しかし、恋は秋奈の方を見ることはない。ただ、前を向いている。


「恋、聞いているのか。……恋!」

「……私だって、理由も説明しない命令を聞くほど甘くはないです」

「……っ!理由を言えば、聞いてくれるのか、お前は」

「…………」


返事は、ない。秋奈は悔しそうに歯を食いしばるが、怒鳴りつけたところで臆すような相手ではないとわかっているために激情をなんとか飲み込んだ。


「あいつは……蓮斗は、あのままにしておきたいんだ」

「あのままって……記憶喪失のままに、ですか」

「ああ」

「……なぜ」

「……それを、言わせるのか」


あくまでも冷静に、恋は聞いた。逆に、いつもは冷静沈着、悟ったような雰囲気を纏う秋奈が動揺している。

これでは、いつもとは立場が逆だ、と恋は密かに思う。


「……私は、あいつのスピリチュアルカウンセラーだ。故に、あいつのことなら、大体はわかっている」


俯きながら、秋奈はそう言った。まるで、何かに怯えているような、そんな印象を受ける。その理由は、次の言葉であらわになった。


「蓮斗が、どれだけ危険な存在か、お前もわかるだろう!……もし、あいつの気がふれて無差別に暴れたとしたら……。ありえないこととはわかっていても、私には脅威。恐怖を駆り立てるには充分過ぎる!」


肩を抱き、吐き出すように喋る秋奈。その様子に、恋は驚いた。秋奈のこのような姿は、見たことがない。


「いつ私に、栗実に危害を加えるか……。そう考えるだけで震えがくる。正直に言おう。私はあいつが恐い。あいつは……危険すぎる」

「……それと、私がレン君と関わっちゃいけないことに、何の関係があるんですか」

「決まっているだろう!」


身を乗り出して、恋の肩を掴む秋奈。その姿には、いつもの秋奈の面影を見ることが出来ない。


「お前が蓮斗と接触すれば、記憶が戻ってしまうだろう。それと同時に『蓮』も復活してしまうかもしれないんだ!そんなのは……黙認出来ない……!」



必死に、悲痛なまでに訴える秋奈。

しかし、恋は。


「……そんなの、勝手過ぎる……!」


言いようのない怒りを、秋奈に感じていた。

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