真実―後編―〜激突〜
「がっ……かはっ……」
口に溜まった血を吐き出す蓮斗。吐き出しきれなかった血が、口の端から流れ出る。
(この釘さえなければ……!)
ちらり、と南貴の方を見る。南貴は自慢げに、恋に向かって語っていた。
この状況を打破するのなら、南貴が背を向けている今がチャンスだ。
「仕方、ない……」
南貴には聞こえないほどの小さな声で、蓮斗は呟く。
――出番だよ、『蓮』。
「あんたが、レン君を……!」
「あぁ、そうさ!ずっと待ってたんだよ、コイツが狂うのをさ!」
高らかに南貴は語る。
「長かった……。あぁ、長かったよ!目障りなことに、コイツは昔から俺の1歩先に立っていた。勉強でも、スポーツでも、喧嘩でもだ!コイツがいなければ全部うまくいってた筈なのに!!」
南貴の様子が少しずつおかしくなっていく。喋りから語りへ、そして叫びへと変わっていく。
「コイツに!俺は!!全部奪われたんだ!!!コイツに会うまでは全部うまくいってたのに!」
倉庫の中に、南貴の叫び声がこだまする。が、それは急に消え失せた。
「……だから、消すことにした」
囁くような南貴の声に、恋は不気味さを覚えた。もはや、正気の沙汰とは思えない。血走った目は獣の眼光。吐き出す叫びは呪いの呪文。
「やっと、叶う。これで俺は――!」
ブチリ、となにかがちぎれる音。その瞬間、南貴は固まった。
限りなく小さな音なのに、南貴にはそれがとても大きく聴こえた。まるで、ムリヤリになにかの皮を突き破ったような、そんな音。
「はっ……」
ぎぎぎ、と音がしそうな動きで、南貴は振り返る。そこには、だらりと両手を『ぶら下げた』蓮斗がいた。全身を脱力して、首もだらりと下げている。
「うそだ……」
ペたん、と尻餅をつく南貴。
「うそだぁぁぁ!!!」
南貴の叫びが先程と同じように倉庫に響いた。1つだけ違うのは、それが恐怖からくる『絶叫』だということだった。
蓮斗は、だらりと下げていた両手をまじまじと見つめていた。血と肉で向こう側こそ見えはしないが、しっかりと貫通している。
そして、あーあ、と呆れたように声を出した。
「全く……イヤな時に替わってくれる」
蓮斗は、何事も無かったかのように南貴の傍にしゃがみ込む。
「くそっ」
勢いよくとびのこうとする南貴だが、蹴り足がすべってうまくいっていない。
「どうした、南貴。俺を消すんじゃなかったのか」
「……っ!!」
今度こそ飛びのき、南貴は立ち上がる。蓮斗はそれを見ているだけだった。
「思えば、俺とお前は本気でやり合ったこと、なかったよな。俺は、いや、『蓮斗』は優し過ぎて本気ではやらなかったし、お前も『俺』が出るのを恐れて本気ではやらなかった」
「……あぁ。それがどうした」
少し冷静になったのか、南貴はあくまで静かに返事をする。その姿に、恋はどこか見覚えがあった。
「あれ……南、貴……?」
呟いてから、恋はぶるぶると頭を振る。今は余計な事を考えている場合ではない。
「来いよ。お前は俺を恨んでるんだろ。俺も、お前に少なからずムカついてる。変な薬嗅がせやがって」
「――は、お前らしいよ。なんだか狂気が削がれちまった。いいぜ、やってやるよ。……けどな、1つ教えてやる」
南貴は、蓮斗を一瞥した。その口元が小さく歪む。
「お前……『蓮』が生まれたきっかけ、覚えてるよな」
「……それが?」
「お前の親に連絡したのは、俺だ」
「……!?」
「わかるよな?俺がお前の親に嘘を教えたんだ。『女子に手を出し、止めに入った教師を殴った』ってな」
瞬間、蓮斗は沸騰した。
「南貴ィィィ!!!」
「蓮斗ォォォ!!!」
倉庫に、2人の叫びが響き渡った。