赤いレンガ〜やっと出会えたその先に〜
更新、多大に遅れてしまい本当に申し訳ありません…。
更新が止まっている間にも来てくださった皆様に感謝とお詫びを。
更新を再開しますので、よろしくお願いします!
指先でペンを弄びながら、恋は何も書かれていない黒板を見つめていた。
窓からは、沈みかけた夕日が放つ光が差し込んでいる。
この教室には、恋以外、誰もいない。当たり前だ。授業などとうに終り、放課後もいいところなのだから。
「……なんでこうなっちゃったんだろ」
カシャン、とペンを落とす音が響いた。何でもない音なのに、なぜだか重たく聴こえてしまう。
恋は、ペンを拾い上げて席を立った。
生徒玄関を出て、恋は目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。瞼越しに、夕日が目を刺激していた。
爪先を地面に叩き、歩き出す。
何も考えずに、学校から家へと、何度も歩き馴染んだ通学路を進んでいく。
立ち止まり、横を見る。
当たり前だが、蓮斗はいない。
振り返ってみる。
味気ない道が続いているだけ。
少しだけ地面を見つめ、また歩き出す。
その中で、恋は思っていた。
――なんだか、急に色が薄くなったみたい。
学校も、この歩き慣れた通学路も、1人だというだけで色褪せる。
一体、恋の中で蓮斗はどれほどの存在だったのか。
まるで灰色の世界の中、それでも歩き続ける。そこでいきなり、ポケットが震え出した。
「!!」
慌てて恋はポケットに手を伸ばす。中から出てきたのは、携帯だった。携帯のバイブレーションがポケットを震わしていたのだ。
ディスプレイに表示されている名前を見て、恋の心臓は1度大きく鳴った。自然と息が荒くなり、携帯を持つ手が震えてくる。
「レン君……!?」
きているのは、電話だ。今すぐにでも通話ボタンを押して電話に出たい衝動に駆られる。
しかし、同時にいいようのない不安にも襲われた。なぜだか、決してこれには出てはいけない、と恋の本能が告げている。
そうしている内に、バイブレーションが止まる。その数秒後に、今度はメールが届いた。
差出人は、変わらずに蓮斗のまま。
恐る恐る恋はメールを開く。
内容は、こうだった。
『レンガ倉庫にて待つ』
それを見た瞬間に、恋はわけもわからず鳥肌が立った。
レンガ倉庫とは、学校の近くに廃墟のようにそびえ立つレンガ作りの倉庫。今や倉庫としては使われておらず、今や暴走族のたまり場と化している。
納得と言えば納得出来る場所だった。
恋は、メールにまだ続きがあることに気付き、画面を下へとスクロールさせる。
『必ず1人で来ること』
「…………」
パタリ、と携帯を閉じる。しばらく地面を見つめ、そして意を決して走り出した。
「はぁ……はぁ……っ……」
するべき事がわかれば、恋の行動は速かった。体力の続く限り走り、体力が切れても気力で走り続けた。
そしてたどり着いた。
赤黒いレンガの無骨な壁が恋を出迎える。そこでやっと、恋は立ち止まった。
体力を考えずに走った代償が恋を襲う。酸素を求める身体を無視し、恋は歩きだした。
「レン君……」
重たい鉄の扉に、手をかける。力を込めて押し開けたその先には、確かに、蓮斗がいた。
「……!?」
しかし、それはあまりにも予想外の光景だった。
恋を待ち構えているはずの蓮斗は、壁に張り付けられたように立っている。否、実際に張り付けられていた。
光があまり差し込まないこの中では、蓮斗の姿をしっかりとは視認出来ない。が、次第に目が慣れ、蓮斗がどのような状況にあるかがわかっていく。
「レン君!!」
理解した瞬間、恋は蓮斗に向かって駆け出した。
蓮斗は、文字通り壁に張り付けられていた。
両手はバンザイの格好で固定させられている。その手から、重力に逆らわずに赤色が流れ、腕を染め上げていた。
恋はゾッとした。あまりにもひど過ぎる。固定するだけなら他に方法はあるだろうに、蓮斗の手は釘で壁に縫い付けられていたのだ。
意識がないのか、蓮斗はうなだれたままぴくりとも動かない。
「レン君、レン君!」
先程までの疲れも忘れ、恋は蓮斗に向かって叫び続けた。
幸い、手以外には目立った傷はないが、今の恋にはそれに気づく余裕もない。
それゆえに、後ろから近付く影にも気付けない。
ゴッ、と鈍い音が響いた。
恋は、その音が自分の頭から聞こえたこともわからず、蓮斗に縋り付くように倒れ込む。
「れ……ん、く…………」
そのまま、恋の視界は真っ暗になった。